日本政府観光局が月次で発表している訪日外客数のデータでは、2023年8月についに2019年同月の訪日外客数を上回り、その傾向は続いています。観光立国を掲げている日本では、コロナ禍を脱却したと言える一つの区切りとなりました。
2024年については、JTBの予測では、訪日外客数3310万人と推計しています。
さて、ここで再燃する懸念があるのは、タイトルの通り、オーバーツーリズムです。文化、法律、言語の差異による様々なトラブル、滞留人口の総数と分布の急激な変化によって引き起こされる、インフラや設備の機能不全や破綻によって生じるより大きな問題など、日本だけではなく、海外旅行が一般化した1970年代以降、世界中で起こっています。
2018年6月には、急激に増加する訪日外客への対応方針をとりまとめるため、観光庁に「持続可能な観光推進本部」という組織が設置され、2019年6月には、同本部から「持続可能な観光先進国に向けて」というドキュメントが発表され、ガイドラインとして現在まで参考にされています。このドキュメントには、地方自治体から寄せられた大小様々な訪日外客対応への課題が列挙されています。
国としてできる法律や制度の変更、例えば、タクシーの一部自由化が議論されているのも、これらオーバーツーリズムへの対応というのも一端として関連があります。他にも様々な補助金の立ち上げなど、できることは進めていますが、顕在化していたオーバーツーリズム問題の解決には、まだまだ道半ばと言える現況でしょう。
ちなみに、地方自治体レベルでも、より快適な旅行のための環境整備(レンタサイクル、電動キックボード、多言語案内表示)などは前向きな対策(街が活性化し、税収が増える)であるため、じわじわと進んでいる側面はあります。
もちろん、宿泊施設など訪日外客ど真ん中の業種は、ほぼ万全に近い対応が取れているところが多いです。
ただし、地域住民の生活快適性の維持という方面では、後手に回っている、あるいは、2019年以降あまり進んでいない自治体が多いのが事実です。
さて、このままですと、2024年はオーバーツーリズムによって、国民の日常生活レベルで言えば、大小様々な不便さが生じるのではないかと思われますが、国土交通省発表の「訪日外国人消費動向調査」2024年と2019年を比べて、この不安は杞憂なのかどうなのかについて見てみたところ、大きく3点、気にしておくべき傾向がありました。
まず顕著であるのは、中国人に頼っていた地域です。就航路線が中国に偏っていた静岡県、中国向け個人パッケージ旅行ゴールデンルート中核の愛知県、シカに噛まれた中国人が多数いた奈良県などで、2019年と比べ、5%前後訪日外客数の訪問が減少しています。もちろん、内訳は訪日中国人の減少です。(理由は2023年8月までの訪日個人旅行の制限と、その後の原発処理水問題です。)
これら地域については、生活圏に外国人が浸食してくる状況は格段に緩和されるはずですが、一方で単純に観光収入やそれに関連する税収に大きく打撃を受けるでしょう。
公共予算に影響が出るのはまだまだ先でしょうが、これまで中国人歓迎をベース戦術としてあらゆる事を考えていたのを大きく方針転換する必要があるでしょう。
二つ目は、訪日韓国人が多い福岡を中心とした九州エリアです。コロナ禍後、最も多く日本を訪れているのは、韓国の方々です。
これに後押しされる形で、特に福岡県は、2019年7-9月期と2023年7-9月期を比較した際に、増加率が全国トップでした。熊本県、大分県も増加しています。特に九州北部は、2019年よりも、かなり大きなオーバーツーリズムの問題が発生する可能性があります。
そして、三つ目。東京都への集中が傾向として顕著でした。結局のところ、コロナ禍で草の根レベル(訪日外客の現地レポート)の情報が途絶えたため、入ってくるのは外国人在住者が多く、見所が多い場所の情報、当然、国としても取り上げやすい情報、すなわち、東京というわけです。
交通の便もいいですし、3回くらい訪日しても東京を堪能したとまではいきませんし、なにより、中国人以外はほぼ自由旅行ですから、知らない土地に無理矢理旅行会社に連れて行かれて、意外と良かったというバズるきっかけが明らかに少なくなるわけで、訪日外客の東京一極集中は自然の流れです。
東京は、おそらく都市型オーバーツーリズム問題の世界的なモデルケースになるのは確実でしょう。
一方、地方自治体は、これから本腰入れて訪日外客向けの情報発信を自発的に行っていかないと、観光立国した日本なはずなのに、トラブルもなければ恩恵もないという事になりかねません。
数年後に、年間訪日外客が、日本の人口の半分になったとしても、正直驚きはありません。観光客と共生するというのは中々イメージがつきませんが、考えてみる必要はあるでしょうね。