CJコラム

日本語という言語の難しさと、AI時代のポストエディティングの価値

AI翻訳の精度は近年飛躍的に向上し、翻訳業務のスピードアップやコスト削減において大きな可能性が広がっています。その一方で、品質を犠牲にせずにAIを活用するためのカギとして、ポストエディティング(Post-Editing)という工程が注目されています。

ポストエディットとは、AI翻訳の出力を人間がチェック・修正して、最終的な品質を保証するプロセスです。特に「なるべく早く納品してほしい」「予算には限りがある」といった制約がある中でも、「品質には妥協したくない」というニーズに応える手法として、多くの企業や翻訳発注者にとって現実的かつ効果的な選択肢となっています。

ポストエディットは特に、構造が定型的で専門用語の多い製品マニュアルや操作手順書、意味の正確さが重視される社内報告書や業務資料、大量かつ更新頻度の高いWebサイトやFAQ、パターン化されたEコマース向け商品説明などにおいて高い効果を発揮します。これらの文書はAI翻訳との相性が良く、ポストエディティングによって効率的かつ一貫性のある、読みやすい翻訳を実現できるため、コスト・スピード・品質のバランスをとるうえで最適な対象と言えるでしょう。

ただし、これらの文書には、日本語から英語に翻訳する際に大きなハードルとなる「主語の省略」や「体言止め」が多く含まれていると言っても過言ではありません。こうした文書は、もともと翻訳を前提とせずに書かれていることが多いため、翻訳者やポストエディターは、文脈を的確に読み取り、意図を明確にする必要があります。

実際、日本語にはAI翻訳がつまずきやすい要素が多く存在します。代表的なものとしては、以下の3点が挙げられます。

① 主語の省略

日本語では「確認しました」「届きました」など、主語を省略した表現が日常的に使われますが、英語では主語が文の基本構成要素であるため、明示しないと意味が不明確になります。

たとえば、

I have confirmed it.(私が確認した)

We have reviewed it.(私たちが確認した)

Your submission has been reviewed.(あなたの提出物が確認された)

It has been confirmed.(それは確認された)

このように「誰が」「何を」行ったのかを文脈から補う必要があり、AIではその判断が難しく、誤訳や不自然な訳になりやすいポイントです。

② 体言止め

「早急な対応のお願い」「資料のご提出」など、日本語では名詞で文を終える体言止めが頻繁に使われます。これは婉曲的で丁寧な印象を与える一方、英語にはこうした構造がなく、直訳すると意味は通じても、相手の行動を促す力に欠けた表現になってしまう恐れがあります。

たとえば、「早急な対応のお願い」という体言止めの表現は、日本語ではごく自然で丁寧な依頼として成立していますが、英語ではそのままでは意味が不明確になってしまいます。英訳する際には、相手に具体的な行動を促す形に再構成する必要があります。たとえば、

このように、英語では「誰が、何を、いつまでに行うべきか」を明示することが求められます。したがって、AI翻訳が出力した直訳をそのまま使うのではなく、人間が文脈を読み取り、意図に沿った自然な表現へと補完・調整する工程=ポストエディットが不可欠となるのです。

③ 曖昧な表現

日本語には「前向きに検討いたします」「今後の参考にさせていただきます」など、意図をぼかすことで丁寧さを保つ曖昧な表現が多く存在します。これらは文脈によって「了承」「保留」「断り」など異なる意味に解釈され得るため、翻訳者が背景や意図を理解し、英語として適切な表現に再構成する必要があります。

このように、日本語の特性は機械的な処理では対応が難しい部分が多く、AI翻訳の限界を補完する人の介在=ポストエディティングの価値が、ここにあります。そしてさらに、バイリンガルによるポストエディティングに加えて英語ネイティブのチェックが入ることで、意味の正確さに加え、「自然で伝わる英語」へと昇華されていきます。

ネイティブチェックがもたらすもの

ネイティブチェックは、単なる「誤りの確認」ではなく、英語母語話者の視点を取り入れて表現を整えるプロセスです。丁寧すぎる言い回しを、より簡潔で自然な表現に置き換えたり、曖昧な日本語のニュアンスを明確に伝わるように調整したり、文全体の語順やトーンを英語として読みやすい形に整えたりするなど、翻訳文の完成度を高めるための微調整が行われます。

たとえば、

We hope you will give this matter your full consideration.

 → Please let us know your thoughts by Friday so we can proceed accordingly.

のように、相手に具体的なアクションを促す表現に変えることで、より実務的で伝わりやすい文章になります。

こうしたネイティブの視点を加えることで、訳文は文法的な正確さだけでなく、読み手の立場に配慮された、伝わる英語へと自然に仕上がっていきます。

AI翻訳が普及する中で、「誰がどこまで手を入れるか」が翻訳品質を左右する時代になりました。バイリンガル+ネイティブのダブル体制によるポストエディティングは、品質にこだわる企業やグローバル展開を意識する発信者にとって、確実な価値を提供する手段です。

単なる速さでも、単なる安さでもない。意味が正確で、かつ、伝わる英語を実現するためのベストプラクティスとして、ポストエディティング+ネイティブチェックという工程を、ぜひご活用ください。

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