CJコラム

中国人にとって「使い心地の良いサイト」とは何ですか?」~ Vol.6瑞幸VSスターバックス ニューリテールの実例~

今回は前回の「ニューリテール」の話の続きです。
前回は、中国でオンラインショップと連動する実店舗型の体験ショップを開設することで、人々の日常生活の不便な点を解決し、ニューリテールのブームに乗って市場開拓を進めることができると解説しました。

中国人にとって「使い心地の良いサイト」とは何ですか?~ Vol.4~」では、Taobaoなどのオンライン販売が、実店舗が抱える問題を解決したとお話しました。これらの問題解決の要となるのは、一連のオンライン技術とオフライン環境の構築であり、完全に実体店を切り捨てることではありません。同じようにニューリテール時代の発展も、ネット技術の恩恵だけでなく、オフラインでの生産や物流と密接に関わっています。決してオンラインショップだけに依存してるわけではありません。
経済学者許小年氏はテンセント社での講演で次のように語りました。
「ニューリテールは「伝統産業+インターネット」であり、「インターネット+伝統産業」ではありません」。

ニューリテールの「伝統産業+インターネット」実例

瑞幸コーヒー(Luckin Coffee)


従来正しいと考えられている方法と異なる方法の方が成功する、という中国のことわざがあります。
私自身正直に言うと、瑞幸という名称を記憶するまで一ヶ月近くかかりました。最初は名称ではなく、鹿のデザインがプリントされた青いコーヒーカップの印象しかありませんでした。また、この鹿と瑞幸との関係もまったく知りませんでした。瑞幸の英語名も覚えにくく、Linkinと混同してしまった時期もありました。

瑞幸は、従来のブランディングや4A(ジャグディッシュN.シェスの両教授が、その著書The 4A’s of Marketing において提唱したマーケティングの新しい枠組み)を用いず、まるで経営戦略を持たない白紙のような状態でコーヒー業界に参入しました。そして、その覚えにくい名称にも影響されることなく、瑞幸は賢明な手段を用いて新規参入市場での道を切り開きました。サラリーマンやビジネスマンをターゲットとする瑞幸はフラッグショップ、リラックス店、ピックアップ専門店、配達専門店の4種類の形態の実店舗があります。

これらの店舗は顧客のニーズに合わせてイートイン、休憩所、ピックアップ、宅配の役割を担っています。
この4種類の店舗があることで、立地、顧客の集中する時間帯、その他の事情に合わせて出店できる高い柔軟性を持っていいます。

配車会社DIDIのように中国市場を独占するために、瑞幸は台風のような勢いで拡大しています。
出店した店舗もピックアップ専門店がメインとなっています。広い面積が必要ないピックアップ専門店は、すぐにオープンでき、人件費も最小限に抑えることができます。

数年前登場したGoProのことをまだ覚えていらっしゃるでしょうか?
GoProは様々な場面で使用することを前提とした、小型・防水・防塵ビデオカメラであり、エクストリームスポーツ愛好家をターゲットとしています。ISO感度や音響効果などの性能面は、他のデジタルカメラと比較してもトップレベルとは言えないですが、GoProは今もなお消費者の目を引き、多くのシェアを勝ち取っています。
これはただマーケティングが上手かったからでしょうか?

消費者は「完璧さ」より「ちょうどいい」というコンセプトの商品の方を受け入れる傾向があります。
消費者が考える「完璧さ」とは、単に商品の性能や品質が優れていることではありません。多くの消費者は技術的な知識を持った専門家ではないため、商品の良し悪しを決めるのは消費者個人の主観的な「完璧さ」を基準としています。
この点において瑞幸は、消費者の基準を満たすサービスを提供することに成功しました。

サラリーマンに好感度が高い俳優の張震と女優の湯唯をイメージキャラクターにして、面白いクーポンの配布、オンラインオーダー、宅配サービス、簡単な操作による注文方式など、忙しいサラリーマンの需要に応えるサービスを提供しています。


スターバックスが中国に進出してもう何年も経過していますが、中国において未だ「コーヒー文化・習慣」は定着しているとは言えません。このため、コーヒーの主な消費者は、都市部のサラリーマンに限定されています。コーヒーがまだ国民に十分に認知され普及していない市場では、コーヒー市場で高いシェア率を獲得することで、コーヒーを飲む習慣を普及させる戦略が重要なポイントとなります。先にコーヒーを飲むことを習慣化させ、コーヒー文化を定着させていく形です。瑞幸はこれをよく理解し、先に市場シェアを確保してから、コーヒー文化をゆっくりと広げており、2018年9月19日に瑞幸故宮剣亭店をOPENしてから、現在は中国全土で1099店にまで拡大しています。

 

瑞幸はもう一つ、重要な取り組みを行ってきました。
この取り組みを見た多くの人は瑞幸の成功を確信しました。それは瑞幸が絶妙のタイミングで世間の注目を浴び、スターバックスを挑発する行為を行ったことです。賢明な企業家は派手な行動をとりません。強力なライバルで、スターバックスの土台を揺るがす難しさは瑞幸にも分かっていたはずです。

しかし、なぜ瑞幸はあえてそのようなスターバックスを挑発する行動をしたのでしょうか?

挑発行動をされたスターバックスは、サプライヤーに瑞幸へのコーヒー豆の提供を中止するように働きかけ、瑞幸に圧力を掛けました。おそらく、瑞幸というブランド名を聞いた多くの人にとっては記憶に残らないでしょう。
しかし、このような出来事をメディアが取り上げることで、新規コーヒーブランドは大衆に認知されるようになったのです。
そして瑞幸は、スターバックスが市場競争原則を違反している、との公式声明を発表しました。

この発表はネットで転載され多くの反響を呼び、瑞幸にとっての絶好の宣伝機会となり、その後もスターバックスと瑞幸についての論議は、大衆の中で盛り上がっていきました。

「あのスターバックスを焦らせたブランドだからきっと実力があるにちがいない。」などの心理を利用してブランド価値を上げていったのです。

このような事例は、中国の起業ブームにおいて、大手企業に対して挑戦する精神を起業する多くの人に抱かせる結果となりました。このような出来事を通して、瑞幸はスターバックスに次ぐ位置まで上り詰めることになりました。その後、スターバックスはアリババとの提携を発表し、世間の注目を集めようとしましたが、この宣伝戦争では瑞幸に敗北することになりました。

瑞幸の成功は、正確な市場分析、迅速な行動、オンライン技術の活用、絶妙なタイミングのマーケティングによって実現したのです。
瑞幸の公式サイト:https://www.luckincoffee.com/

 

 

 

ニューリテール時代では、マーケティングと迅速な行動は非常に重要です。
そして、日々成熟するオンライン技術は重要な補助ツールあり、ウェブサイトとアプリケーションはブランドが羽ばたくための翼だと言えます。これらのツールをどう「正しく」組み合わせていくかが重要な鍵になります。
ただし、ニューリテール市場では「正解」はありません。常に模索、研究していく精神が必要であることは間違いないのです。

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