よい翻訳はよい原文言語から
翻訳して納品後、しばらくすると
「○○語と△△語で意味が違っている」
「□□語の翻訳品質が悪いと指摘を受けた」
「一部の言語で誤訳があった」
・・・ということを多言語翻訳ではよく聞きます。大抵の場合、翻訳者が悪いと言われますが、それが全てでしょうか?
おろそかになりがちですが、翻訳は2言語の橋渡しなので、当然翻訳元となる原文言語も翻訳言語と同じく大事です。
原文が意味の分からない文章であれば当然翻訳品質も悪くなります。ましてや、複数言語への翻訳の場合にはその品質も良くなることはなく、悪いなりに解釈が異なるというものになってしまうのです。
いままでご紹介してきた、シンプリファイド・テクニカル・イングリッシュの多言語翻訳での利用とは、翻訳原文を正確に書くために翻訳需要の多い産業翻訳分野で使用されてきました。
(過去コラム)
Simplified Technical English Vol.1 ~誰にでも伝わる英語(STE)にはルールが必要~
Simplified Technical English Vol.2 ~「部屋には絵が飾られています」を翻訳するルール~
Simplified Technical English Vol.3 ~英語ルール~
先にお話ししたとおり、原文が2通りに解釈できるような文章の場合、翻訳はどうなってしまうでしょうか?
「私には兄弟がいます。」
日本人にはごく自然な文章で特に直す必要はありません。しかし日本語で兄弟は、一般的に兄弟姉妹の意味ですが、広辞苑によれば「姉妹にもいう」とあります。また、日本語の名詞には単数複数がありませんが、英語や欧州言語には単数複数があります。
「I have a brother.」
「I have brothers.」
「I have a brother and a sister.」
「I have brothers and sisters.」
これらのどの翻訳にもなりうるわけです。
厳密に言えば、日本語でも同様に兄弟の内訳は不明ですが、日本語のニュアンスでは兄弟に加え妹もいる可能性が残るのに対して、仮に「I have a brother.」と言った場合、明確に1名の男の兄弟となってしまいます。
こうした問題が生じないよう定義を明確にしようとした試みが、シンプリファイド・テクニカル・イングリッシュに至る過程といえるのです。
ある一つの言語から複数の言語への翻訳を行う際には、それら複数の翻訳言語の視点から見た場合、原文に整合性があるか、曖昧性は排除されているのか、解釈が分かれることはないかという点です。
その意味でも、翻訳原文を正確に書くという作業に一つの基準が考えられたということも納得できると言えます。
よい翻訳品質はよい原文から生まれます。