20世紀のポスター [タイポグラフィ] ―デザインのちから・文字のちから―
http://www.teien-art-museum.ne.jp/exhibition/typograph/index.html
デザインの現場においてタイポグラフィという言葉はよく耳にするがその意味を調べてみると、「文字による表現全般、またはその技法」とある。つまり文字を用いたデザインの事。あるときはポップなイラスト調、またあるときはグラフィカルなイメージへと変化しつつも、確実に情報を伝えるタイポグラフィが、私はデザイン要素の中でも一番好きだ。そのタイポグラフィの原型を観に「20世紀のポスター[タイポグラフィ]―デザインのちから・文字のちから」展へ。
本展では用紙専門会社として有名な㈱竹尾が貯蔵する約3,200点のポスターコレクションの中から、タイポグラフィに焦点をあてた110点が展示されていた。画像と文字を重ね合わせて躍動感あふれる画面を作り出したマックス・フーバー、水平・垂直に画面を分割して文字や画像の配置を決める「グリッドシステム」を積極的に実践したヨゼフ・ミューラー=ブロックマン、ウィットに富んだ明るいデザインの中に辛口の批評を織り交ぜる英国デザイン界の巨匠アラン・フレッチャーなど、ポスター画集には必ずと言っていいほど紹介されている作品の他、アールヌーヴォーのオマージュともいえるウェス・ウィルソンのコンサート告知ポスターや、現代の絵文字を先取りしたブラッドベリー・トンプソンの「ウエストヴァーコ社」など幅広い作品が展示されていて興味深かった。
今回の展示構成は以下のようになっている。
第1部:読む文字から見る文字へ:タイポグラフィの革新(1900~30年代)
第2部:タイポグラフィの国際化:モダンデザインの展開と商業広告の拡大(1940~50年代)
第3部:躍動する文字と図像:大衆社会とタイポグラフィの連結(1960~70年代)
第4部:電子時代のタイポグラフィ:ポストモダンとDTP革命(1980~90年代)
歴史上、1900年からの100年間は科学技術が発展し世界中が大きく変化した。それはモノの生産だけに限らず我々の価値観にも影響をもたらした。そうした激動の時代に対応し、時には文化形成をリードする役割を担ってきたのが時代の顔でもあるポスターだ。
各年代別にタイポグラフィを見比べただけでも時代背景が感じられ、驚きと共に新たな発見もあった。中でも印刷機やコンピューターなどなかった作り手にとって苦労や制約の多い時代の方が魅力的なデザインが多かったのが印象的だった。制約がある中でも、多様なアイデアを駆使して広告が作り出されていたという広告制作現場のあり方に共感できた。
マックス・フーバーやヨゼフ・ミューラー=ブロックマンの作品は画集で何度も見たが、実物(A0サイズくらい)を見ると画集なんかでは感じることができないほどグッとくる。サイズにメリハリをつけることで訴求力を生み出す手法を再確認。テレビやインターネットのような動画広告がない時代には、サイズ感というものがデザインの重要な要素のひとつだったに違いない。
ポスターは、消費者が自ら情報を求めにくるウェブサイトとは違い、情報を伝えることはもちろん、見た人の心を一瞬で奪うインパクトがなければならない。街中が広告で埋め尽くされている景色の中で、ほんの一瞬で勝負を決めるためには、計算し尽くされたものでなければ目を引くことは不可能だ。
今回の展示ではその緻密な計算に基づくポスターのタイポグラフィデザインを思う存分楽しむことができ、また「シンプル」なデザインの持つ強さや重要性についても改めて考えさせられた。
今後メディアはさらに進化すると思うが、文字はどんな形であれ私達とともに歩んでいく。Web、電子書籍などのオンスクリーンメディアが成長を続ける中でデザイナーはさらに幅広い表現方法が求められるのではないだろうか。スクリーン上のデザインを主としている私にとって今回の展示会はタイポグラフィの重要度を再考するよい機会となった。
展覧会情報
◎20世紀のポスター [タイポグラフィ] ―デザインのちから・文字のちから―
会場:東京都庭園美術館
会期:2011年1月29日(土)~ 3月27日(日)
主催:公益財団法人東京都歴史文化財団 東京都庭園美術館、日本経済新聞社
http://www.teien-art-museum.ne.jp/exhibition/typograph/index.html