あなたはPCに向かって息を吹きかけたことはありますか? ~動画とインタラクションを併用した先進的ユーザーエクスペリエンスサイト~
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Exposition Monet 2010
Flash Playerのバージョンアップの度にハイクオリティな表現方法が可能になり、動画とインタラクションを併用したWEBサイトが増えてきた。今回は動画に焦点をあて、気になったWEBサイトを紹介したいと思う。
近年の動画を扱ったサイトで特に衝撃を受けたのが、パリのグラン・パレ・ナショナル・ギャラリーで開催されていた印象派の巨匠、クロード・モネの大回顧展の特設サイトだ。サイトを制作したのはフランスの制作会社、「Les 84」(http://www.les84.com/)。最先端の技術と深みのあるデザインを巧みに組み合わせたWEBサイト制作を得意としていて、世界中から高い評価を受けている制作会社らしい。
このサイトはフルフラッシュサイトで、全画面表示された動画を操作しながらモネの色彩を旅していくサイトになっている。フルフラッシュサイトというと昨今では敬遠されがちだが、このサイトにはローディングを待ってでも見たくなる仕掛けがふんだんに盛り込まれている。私自身、このサイトを堪能し終える頃にはモネの世界を存分に体験できた上に「俺は一人の制作者としてこれがやりたかったんだよ!」と心の中で思わず叫び、インタラクションデザインを好きになるきっかけを再度与えてくれた。
何より感心させられたのは企画コンセプト。通常の展覧会のWEBサイトというと展示作品と解説テキストで構成されたシンプルなサイトが多いのだが、このサイトでは、本来静止している絵画の中の人物や景色が、ユーザーのおこす様々なアクションを引き金に、次から次へと動き出してしまうというもの。描写対象が動くことで、モネがどんな気持ちでそれを描こうとしていたのか伝えようとしているのではないだろうか。難しい論評を記載するより、絵画の良さを伝えるのに効果があるかもしれない。こうした絵画が動き出すという非現実的なことを実現可能にする、それが動画コンテンツの良さの一つだと思う。またこうした非日常を与えてくれるのもWebサイトならではだ。モネのファンの方もそうでない方も絵画が自分の手で動かせると聞いただけで興味をもたれる方も多いのではないだろうか。
実際の中身の方はというと、まずは思わず時間軸を忘れてしまうような浮遊感のあるローディングが終わると、美しいピアノの音色とともに淡いマスク処理から一気にモネの作品が全画面表示される。水彩絵の具を混ぜあわせたようなトランジション効果をプログラミングによって表現していたり、水彩絵の具が混ざりあっていくときの心地良さを見事に表現できている点から、一切の妥協を許さないプロの仕事を感じさせる。(この後、「ギャラリー」と「旅」の2つのメニューボタンが表示されるが今回は動画コンテンツの旅を選択。)
1シーン目では、インク瓶をカーソルで倒すというインタラクションからスタート。普段、生活中でインク瓶を倒すという行為はアクシデントで起こることだと思うが、「してはいけない」「あってはならない」行為をあえて体感させることで、心地良さを狙ったのではないだろうか。
2シーン目では、カササギという日本で例えるならカラスを題材にしたのもで、パソコンのマイクに向かって手を叩くとカササギが驚いて飛んでいくというものだ。音に反応してから飛び立っていくまでの静止画から動画へのトランジションがスムーズで思わず見とれてしまった。
3シーン、4シーン...と続き、キーボードを押して鐘を鳴らす、息を吹きかけて風車を回す、ハンドルを引いて汽笛を鳴らす、手を振りかざして霧を払うなど、モネの絵画にちなんだ様々なインタラクションを盛り込みながらコンテンツが展開するが、この先はユーザー自身の手で体感してほしいと思う。思わず必死になってPCマイクに息を吹きかけて我に返りつつも、アートをより身近に、そして自宅にいながらにして、モネ展に行って来たかのような気分に浸ることができるだろう。
BGMやトランジション、モーション、そしてデザインが一体となって繰り広げられる様は高い美意識 を感じさせ、動画とインタラクションを併用することで実物に触れているかのような世界観を実現し、他媒体では表現不可能なブランディングを実現している。今後、技術の発展から動画を使用したサイトは増えると思うが、本サイトは動画を多用したサイトの一つの指標 になると思う。またPCカメラが内蔵されている人/されていない人用に2パターン、インタラクションが用意されており高いユーザビリティを保っている点にも注目したい。
モネの各作品にフィットするインタラクションを盛り込んでいる点や、とことん気持ちよさを追求したモーション、画面遷移の美しさの他に、待ち時間として最も嫌われる「ローディングさせるタイミング」がユーザーが起こすアクションのタイミングの間にうまく配置されている点や、データ容量がどうしても重くなるムービーを絶妙に分割して静止画と交互に組み合わせることで、動静緩急つけながら展開していく方法など、個人的にも参考にしたい点がたくさんあった。
ネットでの評価を見てみると、何度も見てしまったという人がたくさんいてフルフラッシュサイト = うざいサイトという概念を払拭する可能性を秘めたサイトとして制作現場側にいる人達も参考にすることは多々ある のではないだろうか。
PCのカメラ内蔵の方は設定をオンにしてインタラクションによるモネの世界観をぜひ体感してみてください。