CJ Column

コラム

「翻訳」だけでは足りない、多言語Webサイトにおける視覚と空間の文化人類学的考察

文化人類学とは、大きく出すぎてしまいました。ご容赦の程を。

さて、多くの企業が多言語サイトを構築する際、まず着手するのは"言語の置き換え"、要するに翻訳かと存じます。
しかし、言葉が正しく翻訳されていて、さらには、その表現も流ちょうで魅力的な文章だとしても、現地のユーザーが「このサイトは自分たちのためのものではない」という違和感(UXの摩擦)を抱くケースは少なくありません。
その正体は、ずばり、画像構図や空間配置に潜む「文化的な認知の癖」の不一致です。

Webサイトには、文字以外に、色、サイズ、形、空間、コントラストなど、様々な視覚に飛び込んでくる情報があり、これらの総合的な”感触”が、最終的な印象形成に繋がります。
Webサイトは、読み物ではあるものの、それだけではありません。翻訳がいかにパーフェクトでも、見た目や使い勝手がローカライズされていなければ、十分ではありません。

東洋(特に日本)と西洋(欧米)では、世界を捉える視覚的プロセスが根本から異なります。これを理解することは、グローバルマーケティングにおける「勝てるデザイン」の必須条件ともいえるでしょう。
では、そのUXが、日本と欧米でどう違うのかについて、説明したいと思います。


第一章:写真構図における「個」と「脈絡」の対立
Webサイトで欠くことのできない、メインビジュアル。ファーストインプレッションとして、ここを掛け違うと、パフォーマンスは一気に落ちる事になるでしょう。
外国人と日本人の写真の好みには、心理学的な「分析的認知」と「包括的認知」の差が如実に現れます。

【欧米】「分析的」なまなざし
欧米のユーザーは、画面の中の「最も重要な要素(オブジェクト)」を真っ先に特定しようとする傾向が強いです。
メインビジュアルのことを『ヒーローイメージ』ということもあるように、まさに、分かりやすいヒーローであることを求める傾向があります。
そのため、写真については、以下の様な技法を念頭に、検討する必要があるでしょう。

孤立と強調:背景を徹底的にぼかす(ボケ味の活用)や、スタジオ撮影のようなクリーンな背景に製品を置く構図は、彼らにとって「情報の整理がなされており、プロフェッショナルである」という安心感を与えます。

ダイナミズム:黄金比を用いた大胆な配置や、ローアングルからの力強い構図など、「主役が世界を支配している」ような力学を感じさせる写真が好まれます。これは、個の自律を重視する文化背景とも密接に関わっていると言われています。

【日本】「包括的」な調和
一方で、日本のユーザーは「主役を取り巻く環境すべて」を一つのセットとして認識する傾向があります。

「間」と「気配」:被写体を中央に置かず、広い余白(ネガティブスペース)の中にポツンと配置する構図は、日本人にとって「風情」や「季節の気配」を感じさせる。

文脈の提示:例えば一本のペンを紹介する場合、西洋ではペンそのものの細部を写しますが、日本では「そのペンが置かれた古い木机」や「窓から差し込む柔らかな光」を含めて撮影することが多いです。ユーザーはそれを見て、そのペンがある生活シーン全体に共感するというシナリオ感です。

漠然とした風景写真、製品が使われている空間写真、サービスを利用した事による笑顔の人物写真などは、日本人のイメージを刺激し、その中に自分を置くことで好意的印象を得るのですが、欧米人にはそれはあまり効果が無いという、完全にアプローチが異なる顕著な視点です。



第二章:Webレイアウトにおける空間配置と密度の思想
第一章に引き続く形ですが、写真の好みの違いは、そのままWebサイトの「キャンバス」の使い方、ページの基本レイアウトにも波及します。ここには「余白をどう捉えるか」という美学の違いが顕著に現れます。

【欧米】「引き算」と機能的階層
欧米の優れたWebデザインは、しばしば「ミニマリズム」を理想としています。

情報の階層化:『1画面に1つのメッセージ。スクロールするたびに、大きな見出しと洗練された1枚の画像が現れる。』ユーザーの認知的負荷を最小限に抑え、意思決定を迅速化させるための構造として好まれます。

グリッドシステムと余白:余白は「何もない場所」ではなく、「情報を際立たせるための重要な要素」として定義されます。空間を贅沢に使うことが、ブランドの高級感や余裕として認識されます。

【日本】「足し算」と情報の安心感
対照的に、日本のWebサイト(特にECサイトやポータルサイト)は、情報密度が極めて高い傾向にあります。

「埋まっていること」への信頼:日本のユーザーにとって、画面に隙間なく情報が詰まっている状態は、提供者の「熱意」や「情報の網羅性」としてポジティブに捉えられることが多いです。皆さんが思い浮かべる日本を代表するポータルサイトは、ほとんどそういう感じですよね。

探索の楽しみ:西洋が「最短ルートでの目的地到達」を重視するのに対し、日本は「ウィンドウショッピング的な情報の回遊」を好む傾向があります。そのため、サイドバーに多くのバナーがあり、至る所に関連リンクが貼られている構造が、かえって「親切」だと感じられます。

“選択肢が多いとその選択が苦痛に感じてしまい、決定せずに逃げる”という『決定回避の法則』理論がありますが、このしきい値は、日本人はずば抜けて高い(選択肢が多くても耐えられる)という結果も出ています。(2020年に発表された、Nathan Cheek氏らによる研究で、米国、日本、中国、ブラジルなど6カ国を対象にした大規模な調査結果など)
日本人は逆に、選択肢が少ないことはむしろ不満を感じる傾向がありますので、これも欧米人とは真逆ですね。
Webページにぎっしり情報詰め込むと、『日本人:いっぱいあって嬉しい!』『欧米人:・・・(眉をしかめる)』となるわけです。



第三章:色彩と光がもたらす「信頼」の定義
色温度やコントラストの使い分けも、現地化(ローカライズ)の鍵を握ります。

【欧米】くっきりはっきり
ハイコントラストな世界:黒はより黒く、白はより白く。原色を恐れず使い、輪郭を強調するデザインは、知的で論理的な印象を与えます。影の表現も重要で、立体感を強調することが「実体としての信頼性」につながります。

【日本】やわらかくなだらか
ローコントラストな世界:「彩度の低いパステルカラー」や「ニュアンスカラー」の多用は、日本独特の美意識といえるでしょう。境界線をあえて曖昧にしたり、光を拡散(ディフューズ)させて全体を均一に明るくしたりする表現は、優しさや誠実さを象徴します。日本のWebサイトが「白背景に細いグレーの線」を多用するのは、この清潔感と調和を重視するためでもあります。

よく『何色がいいか?その色がどういう印象を与えるのか?』という色から得られるイメージを軸にして、それに対して調和を取るようなデザインのアプローチがありますが、欧米向けには『何色と何色を組み合わせればいいのか?』というように、色そのもの、配色の見た目を検討する傾向が強いです。



第四章:文字情報の「図形化」
多言語サイト担当者が最も頭を悩ませるのが、フォントとタイポグラフィではないでしょうか。

【欧米】アルファベット文化
アルファベット(線)のデザイン:欧米言語は「線の組み合わせ」であり、文字そのものがリズムを作ります。楷書体と筆記体で全く以て違う文字でも誰も文句を言わないのもリズム重視だからでしょうか?そのため、大きな文字を画像の上に大胆に配置しても、背景画像が透けて見え、視覚的な邪魔になりにくいです。

【日本】漢字文化
日本語(面)のデザイン:漢字は「複雑な面」の集合体といえます。画数が多いため、画像の上に直接文字を乗せると、視認性が著しく低下します。結果として、日本では「文字の下に帯を敷く」「文字に縁取りをつける」といった処理が必要になるケースが多いです。これが、西洋的な「洗練されたミニマリズム」を日本語で再現しようとした際に、どうしても「野暮ったく」なってしまう原因の一つです。

『画像の上に文字を置くと読みにくいから、背景にすかしを置いたり、縁取りしよう』というのは、完全に日本人の発想ということですかね。外国人は全体感で何となく読む(読める文字)という、日本人には全くピンとこない違いがありますね。



結論:グローバルサイト担当者が取るべき「最適解」
正直、脳みそ取り替えないといけないくらい違いがありますね。
文章の品質に見合うデザインとして、少なくとも以下の様な事は一考の余地があるでしょう。

・メインビジュアルの差し替え
英語圏向けには「製品のクローズアップや強い人物の眼差し」を。日本向けには「使用シーンの空気感や風景の中の製品」を。

・情報密度の調整
グローバル共通のテンプレートを使いつつも、日本版では「回遊性を高めるバナー」を追加し、欧米版では「CTA(行動喚起ボタン)以外のノイズ」を徹底的に排除しましょう。

・色彩設計の微調整
同じブランドカラーでも、海外版では彩度を上げ、国内版では少し明度を上げるなどのわずかな工夫が、ユーザーの「直感的(本能的)な好き嫌い」を左右します。

グローバルサイトの"居心地の良さ"を検討すること、つまりは、UXの向上を考えた場合、日本とそれ以外の文化圏の根本的な違いを理解し、それに倣うことが必要になります。
ただ、これだけ心細やかな日本人だからこそ、これを追求して欧米ネイティブサイトに勝てる要素もあるのではないかとも考えます。
そういう意味では、日本と欧米の双方の感覚を持ち込める多国籍チームが、多言語Webサイト運営の最適編成といえるでしょう。

N.W  プロデューサー

この記事に関連してよく読まれているご質問

Webサイト制作(多言語) / 翻訳 / Webサイト制作(日本語) / 多言語DTP・グラフィック

見積もりは無料ですか?

見積
Webサイト制作(多言語) / 翻訳 / Webサイト制作(日本語) / 多言語DTP・グラフィック

見積もりだけでも依頼できますか?

見積
Webサイト制作(多言語) / 翻訳 / Webサイト制作(日本語) / 多言語DTP・グラフィック

情報管理体制はどのようになっていますか。

サービスレベル・内容
Webサイト制作(多言語) / 翻訳 / Webサイト制作(日本語) / 多言語DTP・グラフィック

社内の稟議で複数パターンの見積が必要です。対応可能ですか?

見積
Webサイト制作(多言語) / 翻訳 / Webサイト制作(日本語) / 多言語DTP・グラフィック

提案時、プレゼンに来社してもらう事は可能ですか?

見積
コラム一覧に戻る

お問合せ

以下のフォームにご入力の上、送信ボタンをクリックしてください。

企業名 企業名を入力してください
お名前 [必須] お名前を入力してください
メールアドレス [必須] メールアドレスを入力してください
電話番号 電話番号を入力してください
お問い合せ内容 [必須] お問い合わせ内容を入力してください

個人情報保護方針

個人情報の取り扱いについて

個人情報の取り扱いについて同意してください

ログインをすると、
会員限定記事を全文お読みいただけます。

パスワードを忘れた方へ

  • ログインIDを入力してください。
  • ログインIDを正しく入力してください。
  • パスワードを入力してください。
  • パスワードを正しく入力してください。
  • ログインID、パスワードが間違っています。


ログイン実行中

ログイン完了!ページを再読込します。