CJコラム

訪日ビジネスを考える~相手に「伝わる」ための要件~

外国人向けのビジネスについて、様々なデータや当社の経験からコラムを執筆してきましたが、ここで一度立ち戻って、品質の高い、伝わる原稿を作るには、どういった要件を満たさなければならないのかについて、まとめたいと思います。

一説には、日本国内には、2,000社を超える翻訳会社があると言われています。もちろん、当社もその一つに数えられるでしょう。筆者自身、こうした多言語周りの仕事に8年ほど携わってきておりますが、元々は国内向けの広告・マーケティング関連の仕事をしており、この業界に入るまでは、「英語?アメリカ人が訳せば、大体大丈夫だろう。」くらいに考えていました。おそらく、多くの方はそうお考えでしょう。でも、この業界に入ってみて、その考えは、良くも悪くも崩れ去りました。

 

「外人(翻訳先の国のネイティブ)が訳せば大丈夫」ではない。

この業界にいると、多くのネイティブの方の訳文に触れます。もちろん、ネイティブな方の文章は、多少のスペルミスがあったとしても、文体として問題があるようなものはそれほど目にしません。ですが、その品質は、ネイティブで翻訳者という肩書きを持っている方の間でも、千差万別、玉石混交な有様です。
嘘かと思うかもしれませんが、上場企業のWebサイトでさえ、本当に世間に出してはまずいようなレベルのものも、目にすることがあります。

 

何故、そのようなことが起こるのでしょうか。

 

最大の原因は、日本語が複雑であるということ。

参考までに、大学卒業までに学ぶ語彙数(単語数ではありません)は、英語が約25,000語に対して、日本語はその倍の50,000語。他の言語と比較しても、日本語は多くの場合、圧倒的な語彙量を誇ります。日英の場合、単純計算で、日本語2語を無理矢理英語の1語に割り当てなければならない換算になり、単語だけや単体の文章だけといった字面を見ただけで翻訳するとなると、まず間違いなく意味が徐々に日本語原文からかけ離れていきます。
ちなみに、日本語検定1級(N1)の合格ラインは、約10,000語ですので、N1を取っているネイティブだからといって、安心できるわけではありません。

 

二つ目に日本語が情緒的過ぎること

「ぴちぴち ちゃぷちゃぷ らんらんらん」というような歌詞の童謡がありますが、こちら、日本語以外でどう表現したらいいのでしょうか?日本語は、他の言語に類を見ないほどに擬音語、擬態語があふれています。「のどごし」「バリバリとパリパリとサクサク」これらを他の言語に展開するのは、ネイティブだとむしろ苦手であることが多いです。行間に香る風合いを感じる楽しさなど、日本語情緒は果たしてどこまで翻訳者にくみ取れるのでしょうか。

 

以上のようなことが、ネイティブは誤訳では無い形で表現してくることです。これによる最も悲劇的な結果は、誤訳では無いので、”間違った内容として正しく”伝わってしまうことです。ネイティブの翻訳者に依頼をする場合には、載せたい原稿の背景や行間なども含めて伝え、正しい語彙を選択してもらえるよう、ある程度の手間を掛ける必要があります。
次回は、ひとえに翻訳と言っても職種によって得意不得意がある点について、今回の内容を踏まえて続けたいと思います。

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