CJコラム

ネイティブライターが生み出す翻訳とトランスクリエーションの真価:そのロジックをさらに掘り下げる

トランスクリエーションの奥深さ

「トランスクリエーション(transcreation)」という言葉は、正式な英語表現ではありませんが、「translation(翻訳)」と「creation(創造)」あるいは「creative(創造的な)」を組み合わせた、広告・マーケティング業界で使われる造語です。通常の翻訳では表現しきれない文化的背景や微妙なニュアンスを反映させ、ターゲットにとって自然で魅力的な言葉へと“再創造”するという発想が、この言葉には込められています。

 

現代の国際的な情報発信においては、単なる直訳では届かない場面が増えています。商品やブランドのイメージ、メッセージの意図を相手に正しく、かつ印象的に届けるためには、言語そのものだけでなく、文化や価値観を踏まえた再構築が求められます。まさにその役割を担うのが、トランスクリエーションなのです。

 

読者に寄り添う翻訳

日本語の広告では、「〜で安心」「〜だからこそおすすめ」といった、曖昧で柔らかい表現が多く見られます。しかし、これを英語に直訳すると、”You can feel safe with this” や “That’s why we recommend it” などとなり、ネイティブにはやや抽象的で説得力に欠ける印象を与えることがあります。

英語では、”Enjoy peace of mind with built-in safety features” や “The perfect choice for your everyday comfort” のように、利点を明確にしながら感情に訴える表現が好まれます。読者の立場に立った言葉選びと構文の工夫によって、広告としての効果は大きく変わるのです。

また、日本では ”safety”(安全)という語が好まれやすい傾向があります。ですが、多くの英語翻訳者が一致して指摘するように、「安心」のより正確な英訳は “peace of mind”です。”Safety” は通常、「危険や損害から守られている状態」を明確に指すものであり、たとえば自動車のブレーキ性能など、安全性を論じる場面で使うのは適切です。しかし、お守りを身につけているときや、並木道を散歩しているときなど、「安心」という言葉が使われる文脈では、英語では“peace of mind”の方が自然です。ここでは「安全性」そのものと関係がない、または非常に薄いからです。

このように、トランスクリエーションは、読み手の心理を前提に進められます。翻訳においては、原文の言葉をただ置き換えるのではなく、その裏にある意図や感情を読み解くことが重要です。

 

意図をくみ取る翻訳プロセス

弊社ではまず、日本語の原文に込められた意図やニュアンスを深く読み取り、下訳を作成する作業から始まります。この工程は、主に日本語を母語とするバイリンガル・コーディネーターが担います。コーディネーターは原文の内容だけでなく、クライアント企業の製品特性やブランドイメージ、ウェブサイトや既存資料に表れた企業理念なども考慮しながら、ネイティブライターに対して丁寧な申し送りを行います。

 

意味の背景をとらえるためのセマンティクスと語用論

言葉の意味には、文脈や文化によって変化する側面があります。たとえば、日本語の「挑戦」はポジティブな意味で使われがちですが、英語の “challenge” は、時に対立や困難といったニュアンスを含みます。

そのため、”embrace a new opportunity” や “take on an exciting project” のように、ポジティブな意味を確実に伝える表現へと置き換える必要があります。単語の持つ「使われ方」や「空気感」に敏感であることも、重要な要素となります。

自然な言葉のつながりをつくるためのコロケーション

“strong tea” “make a decision” “pay attention” のように、英語には「自然な単語の組み合わせ(コロケーション)」があります。日本語からの直訳で “do a decision” “heavy tea” などと表現してしまうと、不自然に聞こえる原因になります。

そのため翻訳の工程では、意味だけでなく「ネイティブにとって自然かどうか」を基準に単語を選びます。これには、コーパスと呼ばれる実際の用例データベースを参照するほか、ネイティブによる音読確認や感覚的な判断が欠かせません。

特に広告や商品説明文のように第一印象が重要な文章では、自然で印象的なコロケーションを使うことで、説得力が格段に高まります。

 

再構築という価値

トランスクリエーションとは、ただ訳すのではなく、「伝え直す」プロセスです。言葉の持つ機能、文脈、受け手の期待をすべて考慮してこそ、本当に “伝わる” 英語が生まれます。

さらに、広告業界で多くの実績を持つ弊社の翻訳チームでは、プロデューサー、コーディネーター、そしてネイティブライターが緊密に連携し、それぞれの専門性を活かしながら文章の再構築を行います。こうしたチームワークにより、一貫性と高品質を兼ね備えた表現が可能となるのです。

最新5件の記事