CJコラム

訪日ビジネスを考える~主要な宗教に関する留意点~


外国向けのビジネスにおいて、対面でも非対面(印刷物、映像、Webサイト等)でも、その国の文化風習をどれだけ理解しているかというのが、最も重要なことになります。特に、禁忌に触れてしまうようなことがあれば、心の底からの歓迎をしたいと思っていても、すべて台無しになってしまいます。(各宗教や宗派で信仰されている方を指す呼称は様々ですが、以降便宜的に共通して「信仰者」としております。また、筆者および当社は、いかなる宗教および宗派に対しても中立な立場として執筆を行っておりますので、その点ご理解のほどお願いいたします。)まず、訪日外客数の多くを占める3カ国の信教について簡単にまとめると、以下の様になっています。

■中国
分類すると、仏教・道教・イスラム教・キリスト教が主要宗教であるものの、最多数は、民俗宗教(日本的な祖先に対する崇敬に近いもの)と言われており、各主要宗教および各宗派の正式な信仰者(厳格な各戒律に基づいた生活を行っている方)は、1億人~4億人程度(正確な統計値は無いようで、各調査ごとにかなり幅があります。)であると言われています。

■台湾
布教信教の自由が前提にあり、政教分離が掲げられているため、国内で多くの宗教が乱立しています。中でも、仏教(比較的チベット仏教が強い)、キリスト教(多数派はプロテスタント)、道教の信仰者が多く、仏教と道教をミックスした信仰概念を持つ方も多いです。人口の約半数が、生活に宗教儀礼や規範を取り込んでいます。

■韓国
仏教、キリスト教(多数派はプロテスタントであるのもの、宗派が細分化されすぎており、カトリック教会の方が多いようにも見えます)が二大宗教です。根底的には、韓国独自の儒教とムーダン(巫俗)がイデオロギーとして背景にあるため、韓国独自のアレンジがされた宗派も多いです。人口の約半数が、生活に宗教儀礼や規範を取り込んでいるようです。

 

訪日外客数の上位国は、明確な宗教的背景が薄いため、禁忌と呼ばれる物事をステレオタイプで語る必要はそれほどありません。宗教とは別に、身振り手振りや仕草などで気をつけなければならない点はありますが、それはまた別の機会を見つけて説明することとします。
では、主要な宗教について、禁忌とされるものの内、日本人がうっかりやってしまいそうなことをまとめたいと思います。ただし、あくまでも概要としての話で、宗派ごとにもちろん違いがあるため、その点はご容赦のほどを。

 

■キリスト教
神社や仏閣といった、他の宗教施設やシンボルに対して抵抗感を持っている方も多いです。そして、キリスト教に対してもちろん最大限の敬意を持っています。ちなみにアメリカでは、選挙の際、多くの候補者は教会に熱心に礼拝する姿をPR素材として使います。敬虔なキリスト教徒ほど支持を集めやすい背景があるためです。従って、インテリアやファッションとして宗教的なモチーフがあるようなお店、テーマパークに対して、否定的な感情を持っている方も少なくありません。
食事については、金曜日に肉料理がタブーであったり、イースター前は大食は厳禁など、時系列による制限がありますので、応接する側が気を払うことで、友好的な対応ができます。

■イスラム教
基本は、六信五行というものでまとまっていますので、そのあたりを調べることをお勧めします。
有名どころでは、偶像崇拝の禁止がありますが、当社の経験上、Webサイトを制作する際には写真などの取り扱いはかなり慎重を期すことが多かったです。人物写真を使わないなど、多数の留意点がありました。Webサイトだけではなく、お店やレストランの内装なども気にした方が良いでしょう。
もう一つ有名なのは食事ですね。一般的に「ハラル」という言葉で何となくご存じかと思いますが、宗派によってかなり異なりますし、非イスラム圏の日本において、ハラル認証を受けているとかの一般的なラベリングだけでOKとも完全には言えない側面もあります。なぜならば、豚肉を調理したフライパンはすでにハラルではありません。もっといえば、冷蔵庫などキッチンそのものレベルから区分しなければならないなどもあるためです。尚、ハラルの対義語は「ハラム」といいます。発音が近いので、発音に自信が無い方は、気軽に口にするのを避けた方が無難です。また、細かいところでやりがちなのは、左手を使うことです。左手は不浄とされているので、直接接する左利きの方は注意が必要です。握手や物を渡す際には、必ず右手で行いましょう。ちなみに、イスラム教人口が最も多い国はインドネシアで、マレーシアやシンガポールにも多いです。訪日外客数も年々増えている地域ですね。

■仏教
日本人にはおなじみな気がしてしまいますが、大きく分けても小乗(上座部)仏教と、大乗仏教と違いがあります。現代の戒律解釈としては、それほど対応に気をつける物事は少ないです。殺生を禁止しているので、菜食かといえば、そうでもありません。そもそも肉食を禁じてはいません。(もちろん禁止している方もいらっしゃいます。)基本的に自らを律することを旨としているため、大食、酩酊などは避けるのが一般的です。よって、よかれと思ってどんどんお酌を進めると、あるタイミングで突然気を悪くすることがあります。(私は、一度それでたしなめられたことがあります。)

 

以上のように、かなりざっくりと説明をしましたが、いずれの信教をお持ちの方も、基本的には他文化に対して寛容な姿勢を持っていますので、そこまで緊張することはありません。信教による制限などを知り、配慮することで、より良い関係を築くことができるという程度には考えておいて損はありません。
しかしながら、印刷物。映像。Webサイトといった、一方的に情報を提示する物に関しては、言い訳をする機会はほとんどありませんので、対面接客より遙かに慎重に企画制作を進める必要があります。

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