先日、以前職場でお世話になっていた方から電話をいただきました。
その方はなんと96歳。元々快活な方だったのですが、昔と変わらず会話のテンポも軽快で滑舌もよく、一緒に仕事をしていたころの記憶も鮮明で、驚異のご健在ぶりでした。
なぜこれほどお元気なのか。この方は中学の英語の先生として長く勤められ、いまもなお毎日ラジオ英会話を聞き日々勉強を欠かさないとのこと。長きにわたる英語の勉強が頭脳明晰さに関係しているのではないかと思いました。
少し調べてみると、バイリンガルであることが脳に及ぼす好影響については様々な研究が進んでいて、近年注目された研究結果の一つにHSE大学(ロシア)とノーサンブリア大学(英国)の研究者チームによるものがありました。
人間の脳は年齢とともに機能が低下し始めますが、その低下を遅らせる力(認知的予備力)もまた備わっていて、脳がさまざまな外部刺激に反応して神経ネットワークを強化し、脳内には知的経験が生涯にわたって蓄積されます。
神経ネットワークが複雑になるほど、認知的予備力は高まり、加齢に伴う脳機能の低下はより緩やかになるそうです。認知的予備力は運動、栄養、職業、余暇の習慣、教育水準、社会経済的地位等に影響を受けるそうですが、研究ではバイリンガルであることがどう認知的予備力と関係しているかを調査すべく実験が行われました。
その結果、第二言語を長く学習し、流暢に話せる人ほど、実験で良い成績を収めたそうです。
研究者は、バイリンガルは日常的に脳内で2つの言語システムの間で切り替え作業を行っていて、そのことが認知機能に好影響を及ぼしている可能性が高いと説明しています。
このほかに、BBCが動画でバイリンガルであることの脳への好影響をコンパクトにまとめているものを見つけました。https://www.youtube.com/watch?v=nzHY-muy2Mw
バイリンガルが2つの言語を切り替える作業は脳の訓練になり、集中力・問題解決力・記憶力、ひいては創造力の向上につながると言っています。また、バイリンガルは認知症の発症がバイリンガルでない人に比べて4年から4年半遅く、脳卒中後の回復が著しく良好だと言う研究結果もあるそうです。さらに、他の専門家はバイリンガルには他人の視点で物事を見る力や様々な考え方を理解する力が見られることを紹介しています。
(この動画では、バイリンガル教育を始めるベストな時期は「早ければ早いほど良い」と言っていますが、ここではその議論は置いておいておきます。)
人生100年時代と言われていますが、体はもちろんのこと頭脳も健康でいられたら、と誰もが願っていることでしょう。外国語を勉強し続けることは上手くいかないことの連続で、上達しないとやめたくなってしまいます。でも、その苦労が脳の健康に役立つと分かれば、もうちょっと続けてみてもいいかな、と思えてきませんか?
【参考】
Foreign Languages Slow Down Brain Ageing
https://www.hse.ru/en/news/research/588914424.html
Why being bilingual is good for your brain | BBC Ideas
https://www.youtube.com/watch?v=nzHY-muy2Mw