CJコラム

Simplified Technical English Vol.2 ~「部屋には絵が飾られています」を翻訳するルール~


前回
のコラムで、シンプリファイド・テクニカル・イングリッシュ(STE)のルーツである「Simplified English Guide」は、航空宇宙産業を背景として作られたことを書きました。その当時、ライティングスタイルに何が要求されたのかを知ることは、今日の多言語コミュニケーションでの課題を考える上で一つのヒントになるのではないでしょうか。

シンプリファイド・テクニカル・イングリッシュは、ASD (Aerospace & Defence Industries Association of Europe)におけるライティングスタイルとして利用されました。航空宇宙産業や防衛・軍事産業における様々な文書、とりわけマニュアル等での使用です。英語を母国語としない者に、ドキュメント内容を伝達するためにライティングに強いルールを定めることで、誤解なく伝達する手段をつくったのです。

今日では、航空産業だけでなく、工作機械など工業製品のマニュアルのライティングスタイルとしても取り入れられてきています。
それは、英語を基軸言語として他の言語に翻訳する際、簡潔かつ正確に行えるという利点があるからです。
英語で書かれたドキュメントは、海外で使用される際には、各国言語へローカライズされることになります。
製造やメンテナンス、運用を均一なレベルで保証するには、原文の英語に異なる解釈が生じないように書くためのルールが必要なのです。
翻訳というと、翻訳する言語(日英ならば英語)の力が問われがちですが、実は原文言語の正確さが大きく左右するといって過言ではありません。

日本語の名詞には単数形、複数形はありません。
「部屋には絵が飾られています」と言った時、a pictureでもpictures でも日本語では同じ「絵」ですが、壁いっぱいに絵が飾ってあるような情景までは伝わってはきません。また、言語によっては単数・複数だけでなく、男性名詞・女性名詞の区別等があります。異なる言語間で正しく、正確に文章が翻訳されるには工夫が必要です。

美術館に複数の絵画が展示されていることを表現する場合、日本語のような単複のない言語で「絵が展示されています」だけでは状況を説明しきれません。

それでは、「たくさんの絵画が展示されています」はどうでしょうか。
1枚ではなく複数の絵が展示されていることが分かります。しかし、「たくさん」は、人の感覚からの表現で作品数はわかりません。展示されているのが何枚かは読み手の想像によって違いがでてきます。

「1200枚の絵が展示されています」と具体的な枚数を表記するとどうでしょうか。
具体的な数字を記載することで、より明確に伝わってきました。「たくさん」という言葉の「曖昧さ」を排除して、具体的な量感を相手に伝えることが可能となります。他の美術館の持つ作品数との比較や、展示するのに必要なスペースを想定することに利用できる文章となっていきます。
こうした曖昧さを排して正確に伝える共通の方法を、ルールとして決めたものがSTEです。

参照: https://en.wikipedia.org/wiki/Simplified_Technical_English

 

 

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