翻訳会社アレこれ~vol.14 禁断のNGワード集翻訳~
多言語の翻訳にかかわって、もう何十年にもなるのですが、ごく最近、ひと昔前だったらお引き受けしかねるような、ちょっと困ったというか、変わった依頼がありました。
それは「NGワードリスト候補」の翻訳でした。
ここ数年ほど観光庁と航空会社からの依頼で、訪日外国人誘致を目的としたキャンペーン施策のためのWEBサイトのコンテンツを作成しているお客様がいらっしゃるのですが、サイト上でユーザーが自由にコメントを記入する欄があるので、あらかじめソース側で不適切なコメントを排除するための、性や差別に関する「NGワード」を仕込んでおく必要があって、それらの「NGワード」を英語と中国語に翻訳して欲しいというオーダーでした。
要するに健全なサイト運営をするために、公序良俗に反するワードをリスト化したので翻訳して欲しいということです。ご相談にはセットで依頼される予算とスケジュール回答用に原稿も添付されておりました。
契約書と宗教と公序良俗及び社会正義に反することは誰に言われるわけでもなく、この仕事をやるうえで昔から「絶対やっちゃいけない」という掟を守ってきたのですが、これもいわば世のため人のため、社会正義のためなのだと自らを納得させ、お引き受けすることにしたのですが、実際のNGリストのそのすさまじい卑猥なワードの数々に、パンドラの箱を預かってしまったような、社会正義のためとは言え、ヘタに担当者の人選を誤ったりしたら問答無用でセクハラオヤジの烙印は免れないとの恐怖から「ここは慎重に」と悩んだ末に、社内の人間を介すことなく懇意にしている委託先のKさんにそっと相談したところ、
「いや~よくぞ私に相談していただきました!これはすごい!やらせてください!やらせてください!これをできる人間は私しかいません!いひひひひひひ、あははははは!」
と予想どおり、うれしくて仕方ないといったリアクションで引き受けてくれたのでした。
それからKさんから何度か案件についての質疑応答がありましたが、さすがに会社の執務室からは電話できないからと「いま会議室からなんですけど、すいません、うふふふふふ」とお互い不便な状況なのに、人には言えないことをこっそり隠れてやっている、秘密を共有する楽しさのようなやりとりの末に納品となりました。
なにせ物がモノだけに、そもそも正規の翻訳ではなく、辞書に載っていないスラングや俗称なのですから、通常なら行う社内の米国人と中国人のネイティブ校正はややこしいことにになるだけなので、それらは通すことなく納品となりました。ひと昔前ならばまずあり得ない、新しい言葉がどんどん氾濫するインターネット社会ならではの新しい依頼ということなのでしょう。
そんなわけで、あんまり大きな声では言えないのですが、弊社にはそのようノウハウ・実績がございます。
ご相談はプロデューサーのK.H.までどうぞ。