CJ Column

コラム

海外向けECに踏み出す際に考えること

近年、日本企業の間で「越境EC(Cross-border E-commerce)」への関心が高まっている。特に、AmazonやShopeeといったモール型プラットフォームに依存せず、独自ドメインを活用した「自社越境ECサイト」を構築する動きが増加している。
背景には、モール出店に伴う手数料率の高さや、訪日外客によるSNSなどを介した日本製品の伝播、さらには直近の円安などが挙げられることだろう。
本稿では、日本企業が自社で海外向けECを行う際の「きっかけ」「メリット」「デメリット」「検討すべき事項」「重点的に取り組むべき分野」について整理し、その戦略的意義を考察する。

第1章 自社越境ECを始めるきっかけ
いまいちわかっているようでわからない、様々なハードルや手間がありそうな越境ECについて、すでに、進出した企業が、何故そこに踏み切ったのかについて、まとめてみる。

1 海外からの自然流入や問い合わせの増加
国内向けECサイトに英語表記を加えただけで、海外ユーザーからの注文や問い合わせが入るケースは少なくない。
『英語で書いてある』ことで、はじめて海外の検索エンジンがリストにあなたのサイトを加え、結果として、偶然かも知れないが、英文の問い合わせが入ることになる。また、SNSの拡散で偶然発見されることもあり、「思いがけず海外需要がある」と気づくことが出発点となることは多い。

2 Made in Japanブランドへの期待
海外では日本製品に対する信頼感や品質評価が依然として高い。とりわけ化粧品、食品、工芸品、アパレルなどの分野で「日本らしさ」を武器にしたブランド展開が期待される。
訪日外客が店頭で手に取った商品を気に入り、SNSで日本に来ない外国人が目にし、ECサイトを探すという広がりが、あなたのサイトにたどり着くきっかけになることもある。

3 国内市場の成熟と成長余地の減少
日本市場の少子高齢化と消費停滞が進む中で、新たな販路を求めて海外に目を向けるといった、市場環がきっかけとなる場合も少なくない。この場合、経済成長、日本への興味、インターネットの拡大などでよくニュースでも見かけるアジア圏向けに着手することが多いだろう。

4 既存の海外取引や展示会を通じた接点
BtoB取引を行っている企業が、展示会などで海外バイヤーや個人客から「個人でも購入したい」との要望を受け、BtoC向けにECを立ち上げるケースも多い。

5 モール依存からの脱却
すでに国内向けにモール型プラットフォームを通してECを展開している企業が、国内向けには採算が十分でも、海外向けの輸出になると手数料が収支を悪化させることは少なくなく、結果として、自社EC化に踏み切りる場合もある。

第2章 自社越境ECのメリット
モール型プラットフォームを利用するのではなく、自社サイトで越境ECを行うことについて、以下の様なメリットがある。こうした点に当てはまる商材を扱っているのであれば、自社越境ECに腰を据えて取り組むことが重要だろう。

1 ブランドメッセージを直接発信できる
自社サイトであれば、デザイン、コピー、商品説明、ストーリーすべてを自社の哲学や世界観に沿って表現できる。モールのテンプレートでは表現しきれないブランディングが可能だ。

2 中長期的な利益率の向上
モール手数料や広告課金を避けられるため、長期的には利益率が高くなる。自社サイトは初期投資が必要だが、顧客基盤が構築されれば安定的なリピート収益を生み出す。
手間こそあるが、継続的に発生する受発注処理、決済、在庫管理、配送などの分野を個別手配することで、モールに支払う金額より安く仕上げることも可能である。

3 顧客データの蓄積と活用
自社サイトでは、購入履歴やアクセス解析データを自社で管理できる。これにより、顧客ごとの嗜好を把握し、再購入キャンペーンやパーソナライズドマーケティングを実施できる。
既存顧客のリピート購入を促すことにかかるコストを下げられるのが、自社越境ECの最大のメリットともいえるだろう。

4 海外展開の基盤としての活用
自社ECを足がかりに、現地代理店との取引拡大や、将来的な現地法人設立につなげる戦略も可能である。オンライン販売は低コストで海外市場の反応を確かめるテストマーケティングにも適している。

第3章 自社越境ECのデメリットと課題
一方で、当然ながら自社サイトでのEC展開には、難しい側面も多々ある。何となくイメージされていることと思われるが、これを具体的に文章に落とすと以下の様になる。

1 集客の難しさ
モール型と異なり、自社サイトは最初から集客力を持たない。そのため、SEO対策、SNS広告、コンテンツマーケティングなどの投資が不可欠である。特に海外市場では言語・文化の違いがハードルとなる。

2 物流・関税・返品対応の複雑さ
越境取引では、関税、通関、配送トラブルなどが日常的に発生する。現地配送業者との提携や、フルフィルメントサービスの活用が重要になる。返品処理の仕組みも整備しなければ信頼を失う。

3 多言語・多通貨対応のコスト
商品情報やFAQを複数言語で運用するには翻訳・更新コストがかかる。さらに為替変動や決済手数料の管理も複雑化する。

4 各国の法規制・税制対応
EUのGDPR(個人情報保護法)や、国ごとの輸出入規制に対応しなければならない。法務リスクを軽視すると販売停止や罰則の恐れがある。

5 信頼性の確立が難しい
海外ユーザーは無名ブランドのサイトからの購入に慎重である。レビューやSNSでの露出、セキュリティ証明書、決済手段の多様化など、信頼を高める努力が不可欠である。

第4章 デメリット解消のため検討すべきこと
以上のようなデメリットを読んでいただくと、おそらく眉がしらにしわが寄るかと思われるが、上述のデメリットは、覆しにくいことではないこともここで説明しておく。

1 集客
はじめに、数ヶ月でいきなり単体黒字化を目指すような計画を立ててしまうと、集客にかかるコストが膨大になるため、投資に二の足を踏むことになる。
まずは、狭いターゲットとそれに確実にあたる商品で、かつ、競合が少ない商品を売り出し、検索結果からの集客を行うという手法をお勧めしたい。
日本国内で商品を販売していると、おそらくそのような商品は特許や法律で守られている物以外はおそらく存在しないが、海外に持っていった場合は、ブルーオーシャンであったり、品質で同種製品に対して優位を取れたりすることが多い。特に、一般的な英単語がない、日本独自の商品(商品名が読み仮名英語になるようなもの、有名所でば ”SAKE” “RAMEN”などだ。)を販売できるならば、非常に強いだろう。

2 デリバリー
決済、受発注処理、在庫管理、配送など、個別手配は分からないことも多く、『契約も英語だったらどうしよう』とかの不安もつきまとうことだろう。流石にいきなる個別の専門企業に問い合わせて交渉すると言うことは難しいだろうから、フルフィルメントサービスを利用し、1社に全て任せるというところからスタートすることをお勧めする。

仮に、WordPressでサイトを構築するならば、「WooCommerce」というプラグインを使用すれば、各種決済、決済以降のフルフィルメントサービス業者への連携まで、以外と手軽に実装できてしまう。もちろん、ショッピングカートなどUI側も難しくはない。もちろん、様々な業者の料金を比較しながら、複数企業のサービスを組み合わせて海外へデリバリー経路を築くこと出来る。そして、多くの場合、モール型プラットフォームを使用した場合より、ランニングコストは安く済むことだろう。

3 言語、通貨
日本人は、完璧を目指しすぎる傾向が強いので、『英語もちゃんとしないと』。とお考えになるだろうが、海外対応が慣れている企業ほど、『ほどほど』を知っている。
確かに完璧にはほど遠いが、今やAI翻訳は意味を伝える上で最低限の文章を作り上げてくれる。よほど、日本語に敷かない言い回しを使っていない限りは、AI翻訳で作った文章をそのまま使う、不安なら、それにネイティブチェックするという程度でまずは十分だろう。
日本円以外への対応については、為替差損は流石によほど規模が大きくないと対策コストが吸収できないだろうが、決済については上述の「WooCommerce」を通して問題なく対応できる。

4 法規制
法規制については、ジェトロが24時間オンラインで相談を受け付けている他、経済産業省では、安全保障貿易管理、輸出管理体制構築支援など、公的機関で手厚くサポートが受けられる。もちろん、様々な助成金や補助金も利用できる。
ご存じの通り、日本国が企業の海外進出を本気で後押ししているので、それに乗っかることで、ややこしい法規制について安心することが出来るだろう。
尚、GDPRなどの個人データ保護関連については、これまたWordPressであれば、プラグイン一つで最低限の対応ができたり、本気で取り組むとしても昨今は月額数千円で提供するサービス企業もいくつか出てきているため、しっかり導入すれば特に問題は無い。

前章のデメリットへのカウンターを順に挙げていったが、残るのは「信頼性」である。こればかりは知名度を上げていかないと得られないものだが、それでも、言えることはしっかりサイトに載せて信頼性のある会社であることを伝えなければならない。SSL、カード情報非保持、利用方法、解約、配送、返品、連絡先、国内実績、海外実績、会社情報など、安心して買い物できる相手であることを伝えなければならない。
そして、デザイン(=印象)も信頼性に寄与するので、しっかりとしたWebサイトを作ることが基本中の基本となるだろう。

第5章 戦略的に考えるべきポイント
自社越境ECというものがどういうものなのかを踏まえて、さて一歩踏み出そうとした場合には、以下の様なことを調べ、決めておく必要がある。

1 ターゲット市場の選定
「全世界対応」よりも、まずは1~2カ国に絞り、現地の文化・商習慣・競合環境を理解することが重要である。国ごとに購買動機や価格感覚が異なるため、市場調査が欠かせない。
これらは、前章で挙げた公的機関などに相談してみることも良いだろう。

2 物流・配送体制の構築
配送コストと納期は顧客満足度を左右することは言うまでもない。そのため、日本国内ではなく、ターゲット地域に居を置く、現地倉庫の利用や、DHL・FedExなどの国際配送業者との契約も検討すべきである。

3 サイト設計とユーザー体験(UX)
海外ユーザーが安心して購入できるデザインや導線設計が重要。多言語対応、現地通貨表示、税金・送料の明確化など、ユーザーの不安を減らす工夫が必要だ。

4 決済手段の多様化
クレジットカードだけでなく、PayPal、Alipay、GrabPayなど地域特有の決済手段に対応することで、購入率を高められる。これらも国内の決済代行サービスよりも、海外の決済代行サービスの方が明らかに手数料が安い。先の「WooCommerce」などを導入することで、こうした安価でインターネット上ではメジャーな業者のサービスと連携が可能になる。

5 コンプライアンスと法務リスク管理
前章でも触れたとおり、ターゲット国への輸出規制・関税・消費者保護法について、しっかりと知識、バックアップを得ておくことは、必要不可欠である。絶対に、専門家の助言を得ておくべきだろう。

6 採算性と価格戦略
海外販売では送料・広告・為替リスクが加わるため、単純な価格設定では利益が出にくい。トータルコストを見据えたシミュレーションを行い、長期的な収益モデルを設計する必要がある。間違っても、短期収益モデルで踏み出すべきでは内。

第6章 成功のために力を入れるべき領域
自社越境ECサイトの目処が立ったところで、公開後、どういう分野に力を入れていくべきか、成功するための基本的な部分について、以下にまとめる。

1 越境EC向けデジタルマーケティング
Google広告やMeta広告を活用し、ターゲット国のユーザーに的確にリーチする。もう少し投資するならば、SNSインフルエンサーとの提携やレビュー動画の活用も信頼獲得に有効である。日本国内にいる、ターゲット国ネイティブな配信者が狙い目となる。

2 多言語SEOとコンテンツ戦略
検索行動は言語ごとに異なる。英語や中国語でのキーワード分析を行い、現地ユーザーが検索する語句での上位表示を目指す。
購買行動に近いキーワード(ニーズが含まれるキーワード)をグリップするには、上で述べたAI翻訳だけでは難しいかもしれない。
キーワード調査で狙うべきキーワードが判明したのであれば、そのキーワードに関連する部分だけは、単なる翻訳ではなく、「文化に根差した伝え方」を意識して書き換えても良いだろう。
そもそもWebサイトに載っているテキストは、購買意欲を高め、決定させる大きな要素であり、理想的には最高の品質を保つべきものである。
最初は、AI翻訳メインでも、徐々に翻訳者に依頼した文章に置き換え、そしてより魅力的なコピーライティングへと、投資を拡大していくことが良いだろう。

3 サイトの信頼性と安心感の演出
前章で述べた事以外に、写真や動画を増やし、より商品や自社の多面的な魅力を伝えていくことを着実に行っていくべきである、説明を尽くすことは、信頼性へと着実に繋がっていく基本的なポイントとなる。

4 顧客サポートとアフターケア
問い合わせ対応はブランドイメージを左右する。時差や言語の壁を超えたチャット対応、FAQページ整備、定型メールの多言語化など、運用体制の構築が重要である。

5 リピーター育成戦略
初回購入後のフォローがリピーター獲得の鍵となる。メールマガジン、SNS発信、再購入割引クーポンなどを組み合わせて顧客との関係を継続的に築く。

6 物流・在庫管理の最適化
海外倉庫の活用をより拡大し、地域別在庫配置を行うことで配送コストと納期を改善できる。さらに、データを活用した需要予測により、在庫リスクを減らすことができる。

第7章 まとめと今後の展望
海外向け自社ECは、単なる販路拡大の手段ではなく、ブランド戦略そのものである。モール依存から脱却し、顧客と直接つながることにより、長期的な信頼と価値を構築できる。
一方で、物流・法務・言語・マーケティングなど、多面的な対応が求められるため、十分な準備と専門知識が不可欠である。

今後はAI翻訳の進化、グローバル決済の標準化、国際物流の効率化などにより、越境ECのハードルは下がっていくことだろう。
日本企業にとっては、早期に自社ブランドをグローバル市場で確立する好機でもある。短期的な売上ではなく、長期的なブランド資産の形成を目指す視点が重要である。

N.W  プロデューサー

コラム一覧に戻る

お問合せ

以下のフォームにご入力の上、送信ボタンをクリックしてください。

企業名 企業名を入力してください
お名前 [必須] お名前を入力してください
メールアドレス [必須] メールアドレスを入力してください
電話番号 電話番号を入力してください
お問い合せ内容 [必須] お問い合わせ内容を入力してください

個人情報保護方針

個人情報の取り扱いについて

個人情報の取り扱いについて同意してください

ログインをすると、
会員限定記事を全文お読みいただけます。

パスワードを忘れた方へ

  • ログインIDを入力してください。
  • ログインIDを正しく入力してください。
  • パスワードを入力してください。
  • パスワードを正しく入力してください。
  • ログインID、パスワードが間違っています。


ログイン実行中

ログイン完了!ページを再読込します。