オーバーシュートって何?
新型コロナウィルスの感染拡大にともない、政府はさまざまな言葉を使って私たちに警戒を呼び掛けています。そのなかでも、ある日を境に一斉にメディアで使われるようになったのが「オーバーシュート」という言葉です。
おそらく3月19日の感染症対策専門家会議の会見で発せられたのが最初ではないかと思いますが、その伝播力はすさまじく、瞬く間に拡散しました。
この日を境にあらゆる行政の首長、テレビや新聞などのニュースメディアが合言葉のように「オーバーシュートに備える」「オーバーシュート発生ぎりぎりのところだ」などと、まるで「何十年も前から日本で使われていましたから皆さんもちろん知ってますよね」みたいなしたり顔で口にしています。
どうやら、「オーバーシュート」を使わなければ、コロナウィルスの最新動向を把握していないと思われる、だから使わねばというプレッシャーを彼らに与えているようです。「オーバーシュート」はあっという間に恐るべき力を備えてしまいました。
ここに、カタカナ語の功罪を感じずにはいられません。
新しく生まれるカタカナ語には、非常に新鮮味があり、どういう意味なんだろう、と聞く人の興味を引く力があります。今回は確かにインパクトを与えるという効果は抜群でした。
しかし一方で、「オーバーシュートとはいったい何事ぞ」と眉をひそめる高齢者の方が少なからずいただろうことも想像できます。
政府内からも疑問の声が上がりました。
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ロックダウンとかオーバーシュートとか、分かりにくいという声も出ているので、そこは分かりやすい言葉にした方がいいのではないか」(河野太郎防衛相)
新型コロナウイルスをめぐり、政府や専門家会議は「クラスター」「オーバーシュート」「ロックダウン」などとカタカナ表記を使っています。
河野防衛大臣は、これらがそれぞれ「集団感染」「感染爆発」「都市封鎖」などと言い換えられると指摘。その上で、「年配の方をはじめ、よく分からないという声は聞く」「もう少しわかりやすく日本語で言えばいいと思う」と述べ、日本語で表現するよう厚生労働省などに提案する考えを示しました。
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また、アメリカ人の知人によると、日本に住むアメリカ人たちのLINEグループで「オーバーシュートって何?」と話題になったといっていました。(その知人のメッセージには「笑」がついていました)もちろんovershootという語はあるけれども専門的過ぎて、一般的には使われないのでピンとこないというわけです。
日本では一瞬にして、オーバーシュートはだれもが知るバズワードとなりました。もし、いたいけな日本人がオーバーシュートは世界でも感染症の爆発的拡大という意味で使われていると思い込み、海外でいざ使ってみたら怪訝な顔をされ、アレ・・汗 という微妙な経験を味わうことになれば、かのカタカナ語を拡散させた人の深い罪を呪うことになるのでしょう。
聞きなれないカタカナ語を発信する際、各界の影響力のある方々にはこういった功罪を想像していただきたい、とあらためて思いました。