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コラム

Keep Walking ―ウィスキーはどこから来てどこへ向かうのか― ジョニーウォーカーに寄せて

■旧き伝統を大事にするウィスキーの広告が新しい
ウィスキーファンの多くは、ウィスキーの豊かな香りと深い味わいに魅了され、その変わらない伝統の味を求めます。しかし、こと広告に限っていえば、ウィスキーの旧き伝統のイメージとは裏腹に、斬新な手法を取り入れたものが多くみられます。
ジョニーウォーカーは、Keep Walking Theaterと題して、ブランド理念である"Keep Walking"をキーメッセージに、西川美和を始めとする稀代の映像作家6人が短編ムービーを制作して話題を呼んでいます。
国内でも根強い人気を誇るシーバスリーガルは、AR(拡張現実)とfoursquareを連動させたAroma of Tokyoキャンペーンを展開し、バーや都内のスポットでチェックインして獲得したポイントに応じプレミアムグッズをプレゼントするというキャンペーンを展開しました。
グレンリベットは、会員サイト「ザ・グレンリベット ガーディアンクラブ」を開設し、テイスティングイベントの開催やウィスキーに纏わるコンテンツを提供するだけでなく、アンバサダー資格試験(研修)を実施しファンとバーの橋渡しを支援しています。
これらの事例は、映像、AR、SNS、資格研修など、新しい手法を取り入れつつも、それをただの販促キャンペーンで終わらせることなく、これまでに培ってきたブランドイメージのPRや更なる醸成(リブランディング)にも役立てている好例といえます。

■「新しさ」を生み出すためには原点に戻ること
私たち広告制作に携わるものが何か「新しさ」に挑戦する際は、その新奇性だけに幻惑されずに、プロモーションの目的と方法論を合致させることが重要です。その実現には、現状の市況把握に留まらず、その商品が持つ歴史や伝統なども含めて多角的な情報把握が求められます。例えば、『ブルガリは何故BVLGARIか?』でも紹介したように言語にまつわる歴史を掘り下げることで、その商品背景を正しく理解するというのも手法の一つであり、そこからアイデアが生まれることも少なくありません。
そこで今回は、このウィスキーを題材にして、その語源を探っていきたいと思います。

■ウィスキーは「命の水」
ウィスキーの起源は諸説あり、古くヨーロッパ大陸で生まれた蒸留技術と共に広まったと言われていますが定かではありません。ただし、中世になると薬酒としての効用が浸透したこともあり、ウィスキーを作る技術を修道院が独占していたことが文献的な裏づけから判っています。その閉鎖性や希少性、生成過程における神秘性が相俟って、この蒸留酒はいつしか当時の錬金術師の技法と比されるようにもなりました。ですから、この「水」にラテン語のAqua Vitae(アクア・ヴィーテー:直訳は「命の水」)という言葉が宛がわれたのは不思議ではありません。Aquaが「水」を表すことは、アクエリアスやアクエリアムから、またVitaeが「生命の、重要な」を意味することはヴァイタリティーやヴァイタルゾーンといった言葉から推測できます。蒸留、熟成させることで、一つの物資が違う属性の物質へと変化する化学反応は、当時の人には不可思議なものとして捉えられたのかもしれません。

■ウィスキー・ブランデー・ウォッカ、すべて語源は同じ
やがてこのAqua Vitaeはイタリアを中心とするラテン語圏から周辺地域へと派生します。北欧ではAqua Vitと転訛し、フランスではeau de la vie(後のブランデー)、ロシア語圏ではズィズネーシャ・ヴァーダ(後のウォッカ)となります。
さらにAqua Vitaeがスコットランドやアイルランドに伝播し、彼の地で話されるゲール語に取り入れられるとUisge-beatha(ウシュクベーハー)となります。Uisge-beatha(ウシュクベーハー)は時代の変化と共にUsquebaugh(ウスケボー)となり、Usquaを経由し、やがてUsky(ウイスキー)に転訛、そして現在のWhisky(ウィスキー)に落ち着いたとされています。
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■ゲール語で名づけられたウィスキーの数々
img_16_02「ウィスキー」の直接の語源となったゲール語は、一見日本人には馴染みが薄いようですが、本格的なバーや外国産の食材を扱うスーパーに足を運べば、気軽に目にすることができます。日本のマーケットでは、シングルモルトのウィスキーであれば、その聖地とされているアイラ島産のものが多く、殆どがゲール語の蒸留所を冠したものとなっています。
たとえば、今では大型ドラッグストアでも買えるようになったラフロイグは、ゲール語で「広い湾の美しい窪み」を表しています。その他にもアイラ島のウィスキー名にはゲール語が多く使われています(右表参照)。このように遠く離れた日本でも、私たちはウィスキーを通じてゲール語に触れていたことが分かります。

■これまで歩み続けてきた道の先に、これから歩むべき道がある
こうしてウィスキーの語源を探り、ゲール語で名づけられていたというウィスキーの歴史が見えてくると、更にコンテクストを詳しく探りたくなるはずです。今度はそれが育まれた土地や文化、食習慣、さらには気候風土や土壌まで、次なる興味は尽きません。クリエーターにとって、ブランドがもつ豊穣な歴史は、創造力の源泉なのです。
なお、前述したジョニーウォーカーのキャンペーンサイトでは、6分間にも及ぶ動画でそのウィスキーが誕生してから現在に至るまでの軌跡が細かに説明されています。ブランド名の変遷や四角いボトル形状の利点、キーモルトを持続的に確保することで品質維持を実現した経緯などを知ると、現在のブランドステータスが過去に生み出された様々な意匠の結実であることも分かります。 Keep walking ― 映像化されたジョニーウォーカーの理念を通じて、これまでに歩み続けてきた道の先に、これから歩むべき道があることを我々は知るのです。

参考サイト

◎JOHNNIE WALKE ジョニーウォーカー 『Keep Walking Theater』

◎Chivas Regal シーバスリーガル 『AROMA OF TOKYO』

◎THE GLENLIVET グレンリベット 『ブランド・アンバサダーWeb研修』

 

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