あたらしい広告技術の実験場 2012アメリカ大統領選に注目せよ!
広告という観点で見たアメリカ大統領選のキャンペーンは、実に取り組みがいのある研究対象のひとつと言えるだろう。なぜなら広告予算は途方もなく高く(*)、その資金を活用して新しい広告手法や近年ではアドテクノロジーが試される場でもあり、将来の広告トレンドをつかむ格好の材料となるからだ。
(*)2008年の大統領選では、およそ3,180億円のキャンペーン広告費が使われたと言われている。
アメリカの大統領選とはある種お祭りで、有権者を熱狂させるために様々な手段を取る。候補者自身が、まるではやりの新商品のように広告を通して売りに出されるし、候補者たちのメッセージは、伝統的なポスターに始まりテレビコマーシャルやネット広告に至るまで各種メディアを通して、広く米国の隅々にまで届けられる。また、アメリカではどんな小さな町でも活気に満ちた政治集会が開催される。こうした集会では、ビル・クリントンのキャンペーンでフリートウッド・マックの『ドント・ストップ』が使用されたように、候補者の「テーマソング」が大音響で再生されている。オバマが大統領候補だったときには「Yes We Can!」というスローガンが採用され、集会で支持者の皆がお経のように唱和したのは記憶に新しい。こうした活動は、政治の場に高揚感と期待感をもたらし、人々を熱狂させるのに非常に大きな効果を上げる。
選挙の広告宣伝費の中でもテレビコマーシャルは予算の大半を占め、キャンペーン広告費全体の70%に達するとも言われている。その理由は、米国ではテレビで有権者にどんなメッセージを送るかによって勝利か敗退かが決定付けられるからだ。テレビで放映された最初の政治的広告のキャンペーンといえば、1956年のアイゼンハワー大統領候補。単にライバルより多くのコマーシャルを流したという理由だけで、テレビコマーシャルは当時のアイゼンハワー候補に地滑り的な勝利をもたらした。東西冷戦のまっただ中である1964年には、リンドン・ジョンソン候補が「Daisy」と呼ばれるある悪名高いコマーシャルを流し、相手候補に対するネガティブ・キャンペーンを行い、投票者に恐怖心を植え込むことで勝利を手中におさめた。そのコマーシャルでは、幼い少女がデイジーの花びらを、まるでカウントダウンするかのように一枚ずつむしり取り、その次に核爆発のイメージ映像が流れ、最後に"Vote for President Johnson on November 3. The stakes are too high for you to stay home."「11月3日はジョンソン大統領に投票を。家にいるのは危険すぎます」というメッセージを流すもので、相手陣営の核問題に関する失言をフル活用したのだった。
http://www.youtube.com/watch?v=63h_v6uf0Ao
そして今日では、オンライン広告が政治キャンペーンの手法としては不可欠なものになっている。2008年の大統領選挙でオバマは、スマートフォンを使った募金活動やFacebookでの討論会、YouTubeによるメッセージ配信など、ネットによる草の根運動を繰り広げ、無党派層の支持を補強して勝利した。当時最先端で人気が出始めていたメディアを広告手法に取り入れたことが若手有権者を味方につけることに成功し、勝利につながったのだった。現在では、購入履歴やデジタルフットプリントと呼ばれるオンライン上の利用者の軌跡を基に、システムを使って自動的にターゲティングした有権者を対象に、かなりの精度で広告配信を狙い撃ちすることが可能だ。その精度も日に日に高度になっている。例えばインターネットラジオをストリーミング提供するパンドラでは、ユーザーが登録した郵便番号から住所を割り出し、有権者が住む特定の地域にだけ、音声広告やバナー広告をピンポイントで発信するサービスを行っている。
2012年の大統領選挙は、政治広告というものの枠組みをさらに広範にまで押し広げることになると予想される。それは2010年に最高裁判決で下された、企業や組合が「ほぼ制限なしに候補者に政治献金を行うことができる」という規制緩和に起因する。現段階では、ミット・ロムニー候補が早くもテレビコマーシャルを打ち始め、2008年当時大統領候補に立候補したオバマが「金融クライシスは克服できる!」と自信たっぷりに公約を語る映像を引用し、それがまったくの失敗に終わったこと実証していくという効果的なアプローチを採り、オバマ大統領の失敗を強調するテロップを挿入するというネガティブ・キャンペーンを展開している。今後はどのようにネット広告を活用していくのか、楽しみな様相となっている。
広告の世界に興味がある方々は、来年の大統領選挙は要チェックである。資金が大量に投入されるこの広告の祭典は、最も効果的な広告手法や新しいアドテクノロジーを観察するまたとないチャンスと言えよう。
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