「翻訳」を越えて #3 —《言葉の錬金術師》は、今日も”Garbage In, Gold Out”を目指す
翻訳の質にバラツキが生じる理由の多くが、翻訳を請け負う人が自分で翻訳しているのではなくて、翻訳を専門とする登録翻訳者(フリーランスの集まり)を抱えて、複数の翻訳者に依頼する体制を採るケースが多いからです。もちろんその方法でよい仕事をする翻訳会社は幾つもありますし、弊社もそうした協力業者さんのお世話になることがあります。
ただ、人気と実力のあるフリーランスの翻訳家は、宿命的にいろいろな仕事を同時に抱えていますから、翻訳代理店の担当者が必要な時に理想的な翻訳者に翻訳を依頼できるとは限りません。一方、仕事にはスケジュールというものがあり、作業してもらいたい理想の翻訳者が空くのを待つほどの余裕がない場合がほとんどでしょう。ですからスケジュールが優先される限り、当然質に妥協をしなければならない場面も出てくるわけです。
つまり、翻訳を成果品とする限り、質の高い翻訳者との出会いが何を置いても必須となるという主張は大きく的が外れていないと考えます。が、実は、和文原案や翻訳の質が問題にならないくらいの仕事をするのが、外国語の(弊社の場合、英文)コピーライターなのです。彼らはつねにディレクションや翻訳原稿からクライアントの望みや意図を読み解き、それを読みやすいかたちで文章化し、時にはクライアントさえ意識していなかった言外のメッセージを顕現化させることもあります。これがクリエーティブ・ライティングが「クリエーティブ」と呼ばれる理由のひとつです。
英語の世界では"Garbage In, Garbage Out (GIGO)"という笑ってしまうようなフレーズがあります。ある空洞のボックスの左側からゴミを入れれば、右側からはゴミが出てくるという意味です。「インプット(説明)が悪ければアウトプット(作品)も悪いさ」というシニカルな表現で、半ば言い訳としても使われます。箱が本当に空っぽなのであればそれは当然です。でも、真の意味でそれではプロフェッショナルとは言えません。箱に何かを投入し、そこから何かを取り出してみせる時、そこに錬金術的なマジックがなければ感動もありません。
したがってわたしたちは、この箱に譬えれば"Garbage In, Gold Out"(集められた素材が価値ある金になって出てくる)となることをモットーにしています。それは、すぐれたクリエーターたちが皆そうであるように、ネイティブのすぐれたコピーライターの役割を言い表す象徴的表現とも言えるでしょう。もちろんお客様のアイデアを「ガベッジ(ゴミ)」とよぶのは、不穏当です(失礼!)が、バラバラでまだまとまっていない生の材料でも、ライターにそれを「入力」し、そこから素晴らしい広告メッセージを取り出す(「出力」する)という意味では、"Gold Out"というのは、言い過ぎではないと思います。(この「取り出す」仕事をするのが英文コーディネーターなのです。)
いずれにしても、英文コピーを成果品とするわたしたちは、原案で表現されているような質の英文を書くことでは許してもらえません。「原案以上に高い質の英文」を用意することで、初めて英文ライター(コピーライター)の仕事と認めてもらえるのです。ここに翻訳とは根本的に異なる役割があることになります。
最初に掲載された記事でも申しましたが、良い外国語のコピーを作るに当たり、「翻訳は必要」です。でもそれはライターに把握してもらう内容や、意味を伝えるための必要条件的な一プロセスです。でもそれで十分とは言えません。その点で、翻訳を行う担当者は都度違うかもしれない以上、あがってくる翻訳(下訳)の質にバラツキが起こるのはある程度仕方がないことですが、原案の質にかかわりなく、それをクライアントが納得できるような、《熱意を感じられる一定の品質のテキスト》にして海外に出して行くのが、外国語のコピーライターの仕事なのです。
それで、「日本語より良いねえ、この英文コピー!」と驚かれるような仕事をしたいですし、そう言って頂けるのが、私たちにとって最高の喜びであり、誇りなのです。