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コラム

ネーミングの妙 複雑なIT技術を広く大衆に認知させた《クラウド》

いまや、ほとんど誰もが「クラウド」という言葉を聞いたことがあるだろう。コンピューターやソフト業界である種流行語になっているこの「クラウド」は、Cloud Expoを始めとした大規模イベントも各地で頻繁に行われ、そのレビュー記事もネットを賑わしている世界が注目するサービスだ。グーグル、アマゾン、そしてアップルといったクラウドの伝道師(エバンジェリスト)たちは、その革新性を喧伝してやまない。そして、IT関連企業も、自社の広告にこの「もくもくとした雲のようなイメージ」を次々と展開させ始めている。

一方、評論家たちの中には、クラウドなるものは単なるインターネット関連の流行語に過ぎないと主張する者もいる。何故かというと、インターネットそのものが、ネットワーク概念図の中に「もくもくとした雲のようなもの」として描かれてきたという背景があるからだ。つまり今日クラウドベースのサービスと呼ばれるものの多くも、インターネットサービスにただ別の呼称を付けただけに過ぎないと言っているわけである。

だが、真相はおそらくその中間あたりにあるのではないだろうか?

クラウドは、革命的な技術であると同時に、この言葉がクールな流行語として世に響きわたるずっと前から、漠然とした技術体系全体を表す雲のような概念図としてすでに描かれてきたというのは前掲の通りだ。(雲の実態は、インターネット等を含むあらゆるネットワークのことでもあり、それらのプロバイダーから提供される様々なコンテンツのことでもある)。
ネットワーク提供企業は、少し前までは長距離・超高速データ通信の実現に邁進してきたが、今日では、ホストサーバー、データストレージ、ソフトウェアなどもサービスの一環して提供し始めたし、こうしたデータ通信業者が行う周辺サービスは、企業各社自社内に自前で導入するよりも低コストで高品質であるため歓迎されるであろうことは、提供者にとっては随分前から分かっていたことだった。

しかしその技術の革新性とは裏腹に、素人にとってはまさにつかみどころのない、このサービスの全景。これらネットワークとその周辺サービスを提供しようと目論む開発企業のマーケターたちは、頭を悩ませたに違いない。一般化できるネーミングを模索したことだろう。
そしてついに、この漠然と雲のように表され、かつ先端IT技術を含むカテゴリー化困難な複合的サービスを、企業各社に販売するためにはどういう表現が有効なのか、そうしたことをずっと考えてきた抜け目のないマーケターたちが、「クラウド」という言葉には、シンボリックで大衆の心をつかむ潜在的可能性があることを悟ったわけだ。ひとたびこの「クラウド」というコンセプトが「先進的」で「利便性が高い」ものという刷り込みが成功すると、あらゆる利用者をターゲットとした「クラウドベースのサービス」の販売に火がついた。いまでは企業のみならず、個人による利用も可能になっているくらいである。

すでにみなさんも承知のように、クラウドベースのサービスは次々と一般化し、我々も無意識のうちに利用している。例えば、Gmail、Hotmail、そしてYahoo!メールなどがそうであるし、日常の中であまりにスムーズに利用できているので、自らが携帯やネットでこれらのサービスをアプリケーション・ソフトを使って遠隔操作しているという自覚もないくらいだ。身近なところでいえば、iTunesに連動して曲のタイトルやアーティスト名などのオーディオCDの作品データをユーザーから集めたり提供したりするグレースノートや、歌詞を見ながら音楽が聴けるLyricaなどのサービスも、広い意味でのクラウド技術であり、気付かずに使い始めているクラウドサービスの一種と言うことができよう。

こうしたクラウドをベースとしたサービスは、とてつもないスピードで進歩している。それがモバイル技術の長所と組み合わされると、数年前に流行った「ユビキタス」というスローガンの下に約束されたような未来像に近い、無限の可能性を切り開くことになる。先ほどのメールサービスの例のように、モバイル・デバイスを使って、いつでも、どこからでも自分のアカウントにログインしてアクセスできるのだ。また、アップルのブレークスルーとも呼ぶべきiCloudサービスは、こうしたログインのプロセスさえも省いた自動アクセスが可能で、自分の保有する音楽やフォトや、その他さまざまなコンテンツをアップしておき、利用したい時にあなたがどこにいようと取り出すことが可能になる。

良くも悪くも「クラウド」は、仕事の場でもわれわれの生活の場でもあらゆるものをこれからもっと大胆に改革して行くことだろう。少なくとも広告やマーケティングにおけるひとつの推進力としても既に期待を集めている。今後われわれは、「クラウド」と呼ばれる筋斗雲にのり、自由に雲間を行き来していくことになるのだろう。

英文と和文は厳密な対訳になっておりません。
Japanese articles may not fully reflect English content.

 

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