今年の秋は、日本各地が台風や大雨の甚大な災害に見舞われました。
とくに、台風19号による被害は、日本内外のメディアが大きく報道していました。
それらを見ながら、ふと気になったことについて書いてみたいと思います。
それは、そもそもの台風の呼称の使われ方についてです。
気象庁では毎年、台風の発生順に番号をつけていて、この台風は今年19番目に発生した台風でした。また、台風には国際的な名称があります。北西太平洋または南シナ海で発生する台風には、周辺各国の政府間組織である台風委員会(日本含む14カ国等が加盟)という機関が、140の固有の名前(加盟国などが提案した名前)を付けることになっています。今回はフィリピンが用意した「すばやい」という意味のTyphoon Hagibis(ハギビス)が当てられました。
この台風の一連の報道の中で、国内のテレビやラジオ、新聞では19号という数字であふれ、ハギビスという呼称はほぼ使われませんでした。
一方、主な国内メディアが英語で発信した記事で使われた呼称を調べてみると、
Typhoon Hagibis 6社
Typhoon No. 19 2社
となっており、Typhoon No.19, Hagibis と両名を併記した例は見られませんでした。
(ちなみに海外メディアでは言うまでもなくTyphoon Hagibisで統一されていて、台風19号という日本の呼称は一切出てきません。)
NHKワールドサイト 台風報道のバナーには大きく “Hagibis”の文字
NHKニュースウェブサイト “台風19号 豪雨災害”
このように、国内向け・海外向けに台風の呼称を使い分けることがもたらす影響はないのでしょうか。
台風がリアルタイムで報道されるときは、その一つしかないのだから誰でも分かっている。名称など大した問題ではない。という意見もあるでしょう。
しかし、複数の台風が連続して上陸するような場合、どれがどの台風の情報なのか正確に把握することの妨げにはならないのでしょうか。また、各国のメディアや政府が台風に関する情報を取集するとき、情報源となる日本語の資料を読み解く際に余計な手間がかかり、その過程で間違いが起こる可能性はないのでしょうか。二つの呼称を併記して伝えれば、こうした懸念を防ぐことができると思います。
自然災害の頻度や被害の甚大さが目立つ近年、増え続ける外国人住民が適切に災害に対応できるようにするにはどうすべきかが、大きな課題の一つになっています。
そんな中、台風19号の情報提供では、ある言語で避難情報が誤訳されたまま送信され、改めて正確な翻訳への重要性に注目が集まりました。翻訳の正確さはもちろん大切ですが、気になるのは、翻訳された情報が日本語、他の言語に切り離されて発信されているように見受けられることです。そこに、情報の受け手の解釈に混乱が起こる可能性を感じます。
一つの情報を多言語化して発信する場合は、日本語、他の言語が表す内容が常にリンクしているように結びつけて発信することが、発信側に求められているのではないでしょうか。翻訳者だけがそれが何かを知っているというのでは不十分なのです。
話は本筋からずれますが、こんなニュースもありました。
『気象庁は15日、全国で甚大な被害をもたらした台風19号の名称を定める方針を決めた。台風に名前を付けるのは1977年の「沖永良部(おきのえらぶ)台風」以来42年ぶりとなる。当面は19号の表記を使い、来年5月までに定める。気象庁は昨年、台風の名称を定める基準を「大規模損壊1000棟以上、浸水家屋1万棟以上、相当の人的被害」などと設定した。』(2019年10月15日 毎日新聞)
一つの台風に、3つめの名前がつけられようとしています。
一つのものに複数の呼称を使うという、日本ならではの文化をこんなところにも感じました。
(参照)
気象庁:台風の番号の付け方と命名の方法
https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/typhoon/1-5.html
毎日新聞:気象庁、台風19号を命名へ 42年ぶり
https://mainichi.jp/articles/20191015/k00/00m/040/190000c