「しょうがない」
【意味】仕方がない。他に手段がない。やむを得ない。
わたし達が日常で無意識のうちに口にする、ほとんどがあきらめを意味する言葉ですが、日本に来た外国人が最初に覚える言葉とも聞いたことがあります。
特にわたし達のような商業広告の世界で英語の仕事をしていると、ネイティブの英語に慣れていないお客様に、せっかくのネイティブ品質を理解していただけない、メーカー様の複雑な事情で間違っていると分かっていても今更直せない、締切りも迫っているのでお得意様の赤字をこのまま受け入れるより他ない、と言ったやりきれない場面にはしょっちゅう出くわすのですが、当社のネイティブライターがその事にどれだけ憤慨しようと、この「しょうがない!」という言葉を唱えると、「がくっ」と肩の力が抜けておとなしくなってしまう、ある種の呪文のようなものとなっています。
この「しょうがない」にはちょっと苦いエピソードがあります。
その昔、まだお得意様の海外制作部署でご用聞きをしていた頃、海外広告の英文タイプセットと組版の依頼を受け、出来あがったものを一度お納めした後に、お得意様のネイティブコピーライターから手書きで書かれた修正指示をお預かりしました。広告コピーのところに1行挿入するかのように見えた矢印の示す先には、
This typeface is very small! But Syouganai?
の文字が、原稿を見たタイプセットオペレーターは当然その指示書きを本文に打ち込み、校正者も指示どおりの文言を校正、組版へと流れ作業のうえ修正完了、再納品となったのでしたが・・・
「あれ~、なんだこりゃ?」「へんなの入っている、“But Syouganai?” だって」
「日本語の“しょうがない”のこと?」「いったい誰が入れた?」と大騒ぎになりました。
今の当社のコーディネーターなら誰しもが、これは修正指示ではなくてデザインを見たコピーライターから「文字が小さすぎる、でもしょうがない?どうにかならない?」といったコメントであると理解するでしょうが、当時は「原稿は命」というくらい大切なもの、校正者もバイリンガルではなく、読んでしまわないように、一字一句を見合わせ、愚直なまでに原稿の仰せのままとする、あたりまえの仕事をしたまでの現場を責めることはできません。
最後はお得意様に、「いつも当社は英語に強いと言っているくせに、まして日本語なのに、このまま掲載されていたらどうしてくれるんだ!」と、こっぴどく叱られてしまい、苦い思いをしたのでした。
でも本心では、そう言われましても、間違いやすい指示だし、そりゃ現場も間違えますよ、いったいどうすればよかったのだろうと・・・以来、今でもそんな場面に出くわすたびに誰に言われるまでもなく、自らに問いかけ続ける“But Syouganai?”となりました。