令和の時代が始まりましたが、
皆さんはこの新しい時代に、世界で市民権を得る日本発のものがあるとしたら何だと予想しますか?
食事中の方には申し訳ないのですが、私の予想は、「高機能トイレ」です。
日本国内では言わずもがな、海外でもすでに販売はされているので、今さら新しいものというイメージはないかもしれません。海外では専用の電源整備の難しさなどから、未だ市民権を得るまでの広がりは見せていないようですが、私は大きな潜在的ニーズを感じています。
同じ大学の寮で暮らしていたイギリス人は、私が日本人と知ると開口一番、「私、“スマートトイレ”が絶対欲しいの。何でイギリスにないかわからない、あればぜったい買う。」と言い切りました。まだ未体験とのことでしたが、数々のメディアで見ては購買欲を高まらせているというんです。ふむ。イギリスの大学は生活に関わるあらゆるものを電子化しネットで制御していて、アナログな私はあたふたすることも多かったほど、新しいインフラの整備に積極的。またキャンパスには性別のないトイレもあり、先進的な考え方を取り入れようとするお国柄だと思うので、彼女の「我が国にあってしかるべき」という訴えにも納得。しかし、ついに滞在中にめぐり合うことはありませんでした。
またあるとき、日本で何気なく見ていたテレビで、「日本といえばなにを思いつく?」という質問を受けたアメリカの女優がすぐさま「日本は、トイレがすごいわよね!」と切り出す場面に遭遇。日本が誇る数々のコンテンツを差し置いてトイレときたか…、と高機能トイレが彼らに与えているインパクトの強さを思い知ったものです。これはもう世界の女子たちから、じわじわ火がつきそうな、ブレイク前夜の予感がします。
当然日本政府もこの動向を放っておくはずはありません。
内閣府は日本が生んだ高機能トイレを世界へ普及すべく、「ジャパン・トイレ・チャレンジ」と銘打ち、東京五輪までに国内主要空港等で高機能トイレを設置し、日本のイメージ向上にもつなげたいと意気込んでいます。五輪とともに大勢の外国人が日本に集まり、数週間温水シャワー便座を使い続けるとどうなることか。猛暑の時期ということで、残念ながらほとんどの温座のスイッチは切にされているでしょう。。しかしながら、爽快なトイレタイムが世界記録の更新の一助となることを祈りたいと思います。
一方、高機能トイレの隆盛は和式トイレの生き残りをおびやかすものであることも確かでしょう。
足腰の筋力に不安な中高年女性は、長蛇の列に並んだあげく、廻ってきたのが和式トイレであれば譲る方が多く、その需要は急落に下がりつつあるなと感じます。また、公共の和式トイレで流さないまま放置されていることもたびたびあり、なんとしつけのない子供がいるの!と怒りがこみ上げてきたものですが、ふと考えると自動洗浄の洋式トイレしか使ったことがない子供は、和式トイレの使い方を本当に知らなかったのかもしれない、と思うようになりました。この調子では和式トイレの行く末は見えています。もはや厳しい修行をする禅寺や民俗博物館でしかお目にかかれなくなる日が来るのではないでしょうか。高機能トイレの栄華とうらはらに、ひっそり消えてゆくその運命に一抹のさみしさを禁じえないのでした。