翻訳するうえでの大原則は、翻訳する先の外国語のネイティブによって翻訳または監修したものを成果物として納品することです。今ではほぼ常識となっており、特例はありますが、ほとんどの翻訳会社でネイティブによるチェック監修を行っています。
でもひと昔前までは、普通に日本人が外国語を翻訳したものを成果物としている会社もあたりまえのようにあって、ネイティブチェックは言わないとやらない、追加オプションで別料金、という会社もたくさんあったことを記憶しています。
当社はそんな時代から英語圏の人々に自然でわりやすい伝わる英文をモットーに、ネイティブによる英文コピーを提供してきましたが、まれに歓迎されないこともありました。そんな事例をご紹介します。
ある時、お客様から当社の英文に対して次のようなクレームが入りました。
「こちらの用意した原稿どおりに訳されていない!単語も抜けていて、文法も違う!」
この手の苦情は当時としてはよくある話でした。
理由は明らかで、英語圏に向けて書かれたコピーは、翻訳とは違い原文の意図を汲んだわかりやすい表現でコンパクトにリライトされてしまうことから、海外経験のない日本の学校しか出ていないお客様には、どうしてもしっくり来ないのでしょう。それはお客様の入れてきた修正依頼を見ればわかることで、リテラシーの問題でした。大抵の場合は説明して話し合いで解決するのですが、このときはお客様に納得していただけず、ついにはお客様のほうで他の翻訳会社で用意した英文と当方が納品した英文を、第三者を立て、どちらの主張が正しいか検証をゆだねることになってしまいました。
当時英文検証にあたったネイティブの方は、言ったそうです。
「どちらの英文が翻訳として優れたものか、正しい判断はできない」
「でもハッキリわかることは、2つの英語のうち一方は、私の知っている英語ではない」
当社の名誉は守られました。
今にして思えば、その翻訳が正しく翻訳されたものであっても、最終的にネイティブが手がけたものでなければ、その国の言語とさえ認識されない、関係ないシロモノとなってしまうのだなと、そんな思いを強くしたエピソードでした。