CJコラム

海外発、注目ARプロモーション

テクノロジーの発展は、広告世界にも発展をもたらしてきた。その中でも今日特に注目を集めるものと言えば、いまや広告・マーケティングの世界で認知を広めその足場を固めつつあるAR(拡張現実)だ。

BMWのキャンペーンで活用された”An Expression of Joy”と呼ばれるアプリは、CMで使われたBMW Z4の実走アートパフォーマンスを自宅のWebカメラとPCで再現し追体験できるというもの。(まだ試してみたことのない方はぜひパソコンとスマートフォンのデモ用アプリを体験されることをお薦めします。)

また、ユニリーバが行った自社ブランドLynx(日本でのブランド名はAXE)のプロモーションでは、ロンドンのビクトリア駅にある巨大モニターと駅構内のフロア広告を組み合わせ “Where Fallen Angels Appear”という体験型プログラムを展開した。巨大モニターには構内フロアに設置されたARマーカーが映し出されており、その上に立つと、突如天井から美しい天使がおりてきて、魅惑的な視線を投げかけてくる。もちろんこの天使は現実存在ではなく、モニター内で展開される拡張現実だ。イベントそのものの期間は僅か一日であったにも関わらず、多くの人がその拡張現実を体験し、ブランド認知を高めるのに大成功をおさめた。

さて、奇抜なARプロモーションが展開されている中で、問題は、そのARがどうやって生活者の財布の紐を緩めるかということだ。

ARは、デジタル先進技術を使って現実世界の上に新たな現実を言わば「上書き」することで生み出される新しい知覚環境として登場し、われわれを魅了し始めている。しかし実際には、AR自体はそれほど新しいものではなく、用語として最初に使われ始めたのは1990年にさかのぼる。当時ボーイング社の研究者が、飛行機を組み立てる作業員たちをアシストするためのヘッドマウント型デジタルディスプレイの機構を指してARという表現を用いたのが最初と言われている。また、今日では、アメリカンフットボールをTV観戦するファンなら、誰も気付かないうちにARの世界を体験している。ゲーム展開に合わせて表示される、チーム戦略のキーエリアや情報伝達もARなのである。

(この映像では、オレンジとブルーのフィールドラインおよびフィールド中央の「2&4」のインジケーターにAR技術が応用されている。)

広告やマーケティングキャンペーンを、最新デジタル技術を使って大々的に成功させたいという企業にとって、ARは、そのわかりやすさや人々に与えるインパクトの大きさからも人気がある。ARの良さは、他の既存メディアよりも、ブランドや製品自体の信頼を深めやすくし、消費者と近しい関係を醸成することができる点にある。例えばおもちゃのレゴが店頭に用意したARディスプレイでは、購入者がパッケージを開ける前に、その製品の内容をインタラクティブに観て雰囲気をつかむことができる。これは今までになかった体験だ。

昨今の一般消費者は、ARのような新しいテクノロジーでもすぐに理解を示してくれるし、利用すればするほど、「もっと新しいものが欲しい」とさらなる飢餓感さえも抱くようになる。ジュニパーリサーチによれば、AR関連アプリの延べダウンロード数は、2014年には4億を超えると予想している。この数字は2009年時点のダウンロード数100万件と比べても、実に400倍だ。

しかし、ARを利用した広告やマーケティングでは、かっこよさだけでは十分ではないのだ。テクノロジーの進歩と共に、人の関心を惹き続けられる期間はどんどん短くなっている。消費者はテクノロジーの匂いがするガジェットだけでは満足できず、最終的には「本当に役立つもの」を求めるからだ。前掲のBMWのキャンペーンは、なかなか面白いのだが、仮想空間上でカスタマイズした車を走らせるためには、専用アプリケーションをPC上でダウンロードしなければならない。その上さらに、AR用のスマホアプリをダウンロードするためにApp StoreやAndroid Marketにアクセスしなければならない。こんなにユーザーに負担をかけないまでも、ARアプリの入手に時間がかかりすぎるようなら、このツールのせいで却ってユーザーは興ざめしてしまう恐れがある。つまり消費者は、ARに慣れればなれるほど、企業の提供するアプリをわざわざダウンロードしなくなる。それは、二番煎じのありきたりな経験ではなく、明確な価値を期待するからだ。

成功を収めたキャンペーンには、ARも含め、斬新さや人を魅了する力がしっかりと込められている。企業はARの持っている新奇さに過剰反応することなく、むしろブランドに個性を加えるための「控えめなツール」として利用し、その結果、顧客とのエモーショナルな結びつきを醸成するというのが理想的なのかもしれない。

そういう意味での好例は、日本で大成功をおさめたテレビの推理ドラマ『境遇』のARプロモーションだ。スマートフォン用の無料アプリを新聞番組欄にかざすと、ドラマの予告編を観ることができる。このAR技術は壁面ポスターにも応用され、街角でスマートフォンをこのポスターにかざすと画面上で予告編が始まるというプロジェクトは、たちまち話題をさらった。

もうひとつのARマーケティングの興味深い例は「Le Bar Guide」である。ベルギーのビール会社、ステラ・アルトワの出したスマートフォン用のアプリだ。これは、同社のビールを提供するバーを、現在地周辺から探し出し、その店までの行き方を地図上の矢印表示で案内してくれるというものだ。おまけに、ユーザーがビールを3~5杯くらい飲んだら、「Le Taxi」機能がローカルのタクシー会社への配車依頼をサポートしてくれる。これで千鳥足で家に帰る心配からも解放され心置きなくビールが飲めるという仕掛けだ。これがARで言うところの「拡張」を意味するのかどうかはともかくとして、現実において確かな価値を提供してくれるという意味では優れた例と言えるのではないだろうか。

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