CJコラム

東京都写真美術館 映像をめぐる冒険vol.3 3Dヴィジョンズ -新たな表現を求めて-

「立体視」という表現手法は、何を“体験”させてくれるのか?

『アバター』、『アリス・イン・ワンダーランド』など、主要な3D映画を観てきた。
裸眼3Dテレビや、3DS、携帯など、コンシューマ向けデバイスでも、今年は3Dモノが多く出回る年と言われているので、やはり注目しておきたい表現方法だ。

今回は、ショービジネスやエンターテイメントから一歩離れ、『アート』からみた3Dを観たくて、東京恵比寿にある東京都写真美術館へと足を運んだ。
この展示は、同美術館の映像部門がシリーズ企画として行っている第3弾[映像をめぐる冒険]。3D映画などで使われている視覚原理である「立体視」がテーマとなっていた。

展示によると、立体視の歴史は19世紀からはじまる。
写真技術が現れてまもなく、2次元化した写真を再度3次元化するという『還元的な試み』が始まった。そして、その技術の探求は今日まで続いているものの、今も昔もその技術に大きな変化はない。
19世紀には、2枚の写真を並べてみることで立体像が浮かぶという仕掛けが、かのロンドン万博で展示された。とはいえ、現代においてそのレプリカを観ても、手法の新規性もなく何の面白みも感じない。『伝える内容』があってこその手法であることは、今改めて感じ取れる。

今回の展示でもっとも興味深かったのは、「§第3章 新たな表現を求めて」の「藤幡正樹 故郷とは? ジュネーブにて」という映像展示物だった。ここでは『3Dメガネ』をかけて観る。

ジュネーブの街や森の中を、2人の登場人物がたわいもない会話をしながら歩いていく。その映像を淡々と流すというだけというシンプルな内容だ。目新しい映像でもないし、『アバター』のような派手さもない。
映像が投影される空間は真っ黒で、そこには白線が浮かんでいる。もちろんこの白線も3D映像の一部だ。そして、宙に浮く白線上に、2人の会話映像がプロットされている。

実は、展示空間にあるこの白線、登場人物2人の移動軌跡なのである。しかも、GPS(全地球測位システム)を使って座標・高度情報を正確に取得して引いている。この浮遊する白線に目を走らせれば、2人が移動したルート、方角、標高が自ずと体験できるという仕組みなのである。
つまり、今、白線のA地点で映像が流れており、その少し先の白線上B地点には、これから始まる映像が静止して控えている。その先C地点にも次の映像が控え、さらに先のD地点にも・・・・・・と、2人の会話の記録は、点々と観る者たちを待ち構えているのだ。

何とも風変わりな画面構成であり、「今から十数分かけてこれを見るのか?」と思うと、スタート地点で既に私は気後れしていた。
だが、不思議なことに、3D空間の中に映し出される2人の軌跡を辿りながらたわいもない会話に耳を傾けているうちに、ストーリーの中に自然と入り込み、気付けば私は最後の映像にたどり着いていた。

これまで、私たちは2次元のグラフィックや映像に触れ、十分な満足を得てきた。そこに3Dの価値を付加する意味は、『臨場感』を増幅させるためと思われる。
前述の藤幡正樹氏の映像作品で言えば、映像の中に『時空』を表現する手法として3D技術が使われた。それにより、いたって平凡な映像内容にも関わらず、観る者=体験する者の『共感』を得ることに成功しているのだ。『立体視』という表現手法で『何を可能にしてくれるのか』、3D技術の可能性について改めて考えさせられるものだ。

私たち広告表現に携わる人間は、新たな表現手法(ツール)が現れたとき、その『本質』を捉え、「広告主の伝えたい」を明確にエンドユーザーに伝えるために活用する。それが実現してはじめて、そのツールは『本物の価値』を与えられる。それを目の当たりにした時こそ、私たちは「成し遂げた!」という充実感を得られるのである。

今後、この分野は急速に発展・普及すると思われるが、ちょうどこの黎明期に立ち止まってみて、ショービジネスとは一歩離れて立体視という表現方法の本質について一考するのはいかがだろうか?
この展示は、2月13日までやっています。

展覧会情報

◎映像をめぐる冒険vol.3 3Dヴィジョンズ -新たな表現を求めて-
会期:2010年12月21日(火)~2011年2月13日(日)

◎iPhoneアプリでも展示情報が確認できます。
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