ずいぶん前ですが、日本語を勉強中のイギリス人の友人が、ちょっと聞いてくれと言うので、何かと思ったら、
日本人の友達が外に出た途端に発した「さむっ」という言葉に面食らったというのです。
彼曰く、
“「さむっ」て何なんだ?!
「さむい」って言わないの?
そんなことテキストのどこにも書いてないじゃないか!”
と困惑したというのです。
なるほど。
とっさに出るんだよ、そういう言い方、と私は答えるしかなかったのですが、
確かに私たちはこのテの「感覚を刺激された瞬間に形容詞の語幹を短く言い放つ」ということをよくします。
しかも、かなりの頻度で。
あつっ(熱い・暑い) いたっ(痛い) こわっ(怖い) たかっ(高い) くさっ(臭い) ながっ(長い)・・・
毎日のように口にしたり耳にしますよね。もはや言わない日がないくらいです。
改めて考えてみると、その感覚の刺激が、予想に反して程度が著しいとき、もしくは予期せぬタイミングで起こったときに、また総じて思わしくない内容であったときに使うのではないでしょうか。
つまりは「いい時」には使わない。お行儀がいいとは言えないので、テキストにはそぐわないのかもしれません。
またあるとき、会話の流れで、アメリカ人の知人が「がーん」と言いました。私は思わず笑ってしまったと同時に楽しい気持ちになりました。日本語特有の表現で感情を表してくれたことで気持ちを共有でき、親近感がわいてきたのです。
外国語会話の単語や文法ルール、意味など普遍的な性質の事柄は、学校やテキストが教えてくれます。
でも、「さむっ」も「がーん」も日本語のテキストには、おそらく書かれていないでしょう。
日々の生活で起こる予期せぬ物事に反応する素直な感情が言葉になったとき、人間らしさが出るというものです。
相手の表情が緩んだ瞬間に、お互い気持ちが近づくんじゃないかと思います。
いよいよ今年はオリンピックの年、海外から大勢集まる外国の方とこんな会話で交流を楽しみたいですね。