CJコラム

商品写真はバーチャルの世界へ

想像してほしい。あなたはお気に入りのインテリアショップのカタログを眺めている。ふかふかのカーペットから色鮮やかなカーテンまで、夢は広がるばかりだ。さて、そこであなたはお気づきだろか?そのカタログに掲載されている「写真」の多くは、本物ではなくコンピューターで作られたCGだということに。どんなに目を凝らして見ても、誰が見てももはや本物との区別がつかない。

3Dによる「バーチャル商品写真」は数年前まではただの夢物語だった。しかし今では、従来の商品写真と同等の選択肢となりえており、多くの企業が広告やマーケティング物の制作にあたりこのトレンドを活用しているのだ。

一例を挙げよう。スウェーデン発祥、世界最大の家具販売店であるIKEA。2012年の家具・インテリアカタログに使用されている画像の12%を3D画像を用いて作成した。2013年版ではその割合を25%まで増やす予定だという。
他の企業も同様だ。自動車、アルコール飲料、携帯電話等、あなたもそれらの見事な画像に見とれたこともあるかもしれない、…実物を撮影した写真だと思い込んで。

IKEAの2012年版カタログから。これらの「写真」はCG。

CGで作成した画像:家、車(掲載はベンツ)、化粧品。

一流の3Dソフトウェア(Mental RayMaxwell Render)やレンダリングスペシャリスト(Red and Gray)のサイト上のギャラリーには、優れたバーチャル商品レンダーの一例を見ることができる。

最先端のアルゴリズムとプロの眼によって、より完成度の高い画像へ
フォトリアリスティックレンダリングは極めて高度なレンダリングソフトウェアを必要とする。照明、素材、キズや汚れに至るまで、ちょっとした「現実との不一致」が、手品のタネあかしをしてしまうからだ。照明を計算するだけでも、照度、透明度、反射、屈折、コースティックス等の複雑な相互作用が絡んでくる。

過去には、3Dレンダリングの殆どが、フォトリアリズムと呼ぶには遠いものであった。不自然な照明や作り物だと分かる要素のせいで、ほとんどの物体はプラスチックのようにみえたものだ。しかも、3Dアーティストはそのプラスチックのような画像を作るために、ワンシーンを設定するのに数週間をかけ、画像をレンダリングするのに数日、さらにディテールのレタッチで数日かけることもあった。そうまでしても、ファンタジーとリアリティの境界線を消し去るとは言い難い出来であった。

近年、コンピューターは高速化し、有能なソフト開発者が、よりリアリスティックな照明を作り出すことができるアルゴリズムを開発、「Maxwell Render」のような光を実世界の物理学に則って表現するレンダリングソリューションによって、真のフォトリアリズムを達成した。全ておまかせのアートボタンのようなものはないにしろ、趣味として楽しむ素人の手でも、写真のように見えるCGを作れるようになった。

インターフェース:Maxwell Render(左)と Autodesk Maya(右)

同じ場面のワイヤーフレームとフォトリアリスティックレンダー

さらに、プロのカメラマンの眼に勝るものはないということで、レンダリングスタッフとしてプロカメラマンを起用する企業もある。カメラマンたちは、モニター上の”3Dバーチャルフォトスタジオ”で、仮想のカメラ、レンズ、ライティングなどを微調整し、従来の写真に匹敵する作品を生み出す。さらに”3Dバーチャルフォトスタジオ”では本物そっくりの皺がついた撮影用ソフトボックスやレフ板まで揃っていて、説得力のある画像生成のために使用できるのである。

「バーチャル商品写真」10のメリット
バーチャル商品写真が従来の実物を撮影した写真に完全に取って代わることはないかもしれない。しかし、本物の写真と同等の画質であること以外にも、数々の利点を提供してくれるのも確かだ。

1.コンピューター上で、想像し得る限りの環境を構築し、「撮影」できる。
 理想的なフォトスタジオ、SF小説に描かれるようなファンタジックな設定、過去に幾度も撮影された実際のロケーションなどを再現できる。
2.マウスを数クリックするだけで、色や素材を替えることができる。
 ユーザーのコマンドでパイン材はウォールナット材に、綿はシルクに、プラスチックはクロムに変わる。IKEAはこの機能を使い、趣向や取扱商品の異なる地域毎に合わせて調整した画像を作成している。
3.不可能なショットが可能になる。
 例えば、コンクリートの壁が邪魔であればスルーして「撮影」したり、現実ではありえない被写界深度の設定であったり、商品の分解立体図であったり、リアルな水しぶきがそのシーンの照明設定を忠実に反映しつつ何か別の物体に変形するような特殊効果を加えたりすることができる。
4.従来の写真撮影にかかった費用がカットできる。
 スタジオレンタル費用、機材、移動、倉庫格納、セット解体、ゴミ処理費等、一切必要なし。
5.将来的に、同一のシーンを再度セットアップすることもなくレンダーできる。
 クライアントが最後の最後で要望を変え、調整が求められるときなどは救いとなる。
6.鮮度も一定で、傷や経年劣化の心配もない。
 花がしおれていくこともない、食事がさめていくこともない。また商品にかすり傷を付けてしまう心配もない。
7.実際に商品がある必要はない。
 商品開発段階で作成された高精度の3Dモデルを使用すれば、プロトタイプが作られる前でも、フォトリアリスティックなレンダリングが可能になる。複雑な商品の手配を省き、タイトなスケジュールをこなす手助けとなる。
8.想像し得るものならなんでもシーンに加える事ができる。
 巨大なダイヤモンドや古代の遺物など、現実の世界では手に入らないものが簡単に加えられる。
9.従来の撮影では光反射の調整が難しい物体も要望通りの照明効果に調整できる。
10.画像は如何なる解像度でも作ることができる。
 お望みのピクセル数を入力するだけで、プロカメラの解像度を超える解像度で出力できる。

次なるステップは「リアルタイム」のフォトリアリズム
3Dレンダリングの長年の夢であったフォトレリアリズムを達成した今、次の応用ステップとして、企業各社はリアルタイムでのフォトリアリズム実現に向け動き出している。NVIDIAのiray レンダリングソリューションはすでにそれに近いものがある。筆者のように、かつて長々としたレンダリング作業に奮闘した経験がある、趣味で3Dに携わる人間にとっては、この実現は人類が初めて月に到達したことと同等の成果といっていいだろう。想像してみてほしい。IKEAのネットショップで、店頭で実物を眺めるように、1点1点、どんな角度からも、リアルタイムでインタラクティブに吟味できるなんて! そんな革命的な商品宣伝の時代は想像以上にすぐ目の前にあるのかもしれない。

注釈
・フォトリアリズムは、あくまで3Dアーティストがよく使用する表現手法の1つに過ぎない。広告表現の中では、フォトリアリズムだけではなく例えば「イラスト風の仕上げ」も好んでよく使われることを補足しておく。
・本コラムに使用されている画像は全て各々の所有者の独占的財産であり、各画像をクリックすることで、それぞれの出典(ウェブページ)をご確認頂ける。

参考

◎IKEA’s New Catalogs: Less Pine, More Pixels

◎IKEA catalog will be 25 percent 3D renders by next year

◎Photographers: you’re being replaced by software

英文と和文は厳密な対訳になっておりません。
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